長い休暇も終わり、新学期が始まった。
久し振りに会うクラスメイト達は変わりなく、だがほんの少し変わったようにも見えた。
ホームルームが始まるまでの間、休みの間の情報交換もかねて雑談がかわされる。
「そう言えばさ、まだ解決してなかったんだって?連続誘拐事件」
ふとそんな話題にまで話が及んだ。
休暇が始まる前からセントラルでは誘拐事件が頻発していた。
初めはただの行方不明か蒸発か、と思われていた。姿を消していたのは必ず若い男性だった。
通常、誘拐と言えば身代金目的にしろなんにせよ女子供などの弱者を狙うことが多いと考えられている。
だが、行方不明者には姿を消す理由がないことがほとんどで、また遺留品が残されていたケースもあったために「連続誘拐事件」と認定されることとなった。
そうして「連続誘拐事件」の「被害者」は8名を数える。つい先日もまた一人増えた。
被害者にはつながりはなく無差別のように見られたが、ある一定の共通点があった。
20歳前後の若い男性であること、金髪であること、である。
「アルフォンスも気を付けた方が良いな」
「うん、寮母さんにもそう言われた」
暗くならないうちに帰ってくることと、外を歩く時にはせめて帽子を被るようにと注意を受けた。
友人達の心配を受けてアルフォンスは首を捻った。
「でも、ボクの髪はブロンドと言うよりはブラウンだと思うんだけどな」
自分の髪を一房つまんでみるが、短いので直接見ることはできなかった。
「ブラウンと言えなくもないガ金髪とも言えなくもなイ、と言ったところだろウ」
リンが苦笑する。明るい金茶の髪は光に透けると金色に見えた。
「うーん、金髪って言うとどうしてももっと明るいきれいな色だと思うんだよね」
なおも髪をかき回してアルフォンスは言う。
「まあ、あれに比べればナ」
アルフォンスの言わんとすることを読み取ってリンも頷いた。
「なになに?金髪美人にでも会ったのか?」
「うん」
興味津々の体で身を乗り出す友人達に、アルフォンスはあっさりと首肯した。辺りが謎のどよめきを上げる。
「すっごく綺麗な金色としか言いようのないブロンドだったんだ。あれを基準にしちゃうとどうしてもね」
「で、美人だったんだな?スタイルも良かったんだな?そうだよな?!」
「落ち着けヨ」
どうどうとリンはなだめる。なだめながらにこにこと笑うアルフォンスに一抹の不安を感じて口を挟む。
「確かにウィンリィは美人でスタイルも良かったナ」
「え?ウィンリィ?」
「ウィンリィのことだよナ?!そうだよナ?!」
笑顔を貼り付けてアルフォンスに確認をとる。級友は細目の彼の目が開くのを見たのは久し振りだなあ、とのんびりしたことを思う。
「ああ、うん、そうそうウィンリィだ」
はっと気付いてアルフォンスも笑顔で言った。正直その直前まで思い描いていたのは彼女ではなかったが、さも最初からそうでしたと言わんばかりに何度も頷く。
リンの無言の訴えかけで、エドワードの名前を出すのはまずいと言うことをようやく思い出したのだ。
「ウィンリィってアルフォンスの妹じゃなかったっけ?」
「たまたま妹と同じ名前の人だよ。機械鎧技師だって」
「機械鎧技師!ひょっとして年上なのか?!」
「うん、ボクらよりひとつ上、って言ってたっけ」
おおおおー?とまた謎のどよめきが上がる。
年上の金髪美人機械鎧技師、と言う響きにうっとりとしているやつもいる。何せそう言う年頃だから仕方がない。
「よくスパナ投げたりレンチ投げたりしてたね」
「それがまた的中率の高いこト高いこト」
「…危なくね?」
「当たればね」
「当たるけどナ」
一同顔を見合わせた。何とも言えない空気を置き去りに、アルフォンスは話をもとの路線に戻す。
「でもウィンリィは女の子だから、たとえ中央に来ててもこの頃の連続誘拐事件には巻き込まれないんじゃないかな」
「………女の子とかそう言う問題じゃなしに大丈夫そうな気もする」
小さく呟く友人の声を拾ったアルフォンスは小首を傾げた。
気を取り直した級友は、存外真面目な顔でアルフォンスに向き直る。
「アルフォンスは一応は金髪っぽいし若い男ってのも当てはまるんだから注意しろよ」
「ボクだって大丈夫だと思うけどなあ」
まだ自分を蚊帳の外に置こうとするので、やや表情もきつくなる。
「用心に越したことはないだろ。一人で帰ったりするなよ」
「うん、ありがとう」
ただ心配してくれているだけなのが分かるので、アルフォンスも素直に頷いた。
アルフォンスなら返り討ちにしそうだがな、とリンは思ったが口には出さない。おそらくそれを信じる級友は少ないだろう。
学校ではアルフォンスは「穏やかで平和的な性格」で通っている。それは一面では正しい。
ただ売られたケンカはきっちり買い取り倍返し、決して買い渋ることはないという基本姿勢をそれこそケンカを売られない限りは表に出さないだけである。
そしていったん敵とみなせば決して容赦はしない。それだけの実力も持っていた。
一体あの体術をどこで覚えたのか、リン・ヤオはまだ聞いていない。
聞けばあっさりと教えてくれそうな気もするが、野生の勘が知らない方が平和だと警告している。
警告に従った方がうまくいくことが多いので、この件に関してもリンはそうしていた。
そこで始業を知らせるベルが鳴り、生徒達は各々席に着いた。

「転入生を紹介する。ヴィーラント・エンデ君だ。仲良くするように」
ホームルームでリンとアルは愕然とした。
先生に紹介されて壇上に立つ少年は人なつこい笑顔で軽いあいさつをした。
にこにこと笑っているのは、間違いなく二人を見つけてのことだろう。アルフォンスと目が合うと、ヴィーラントはその笑みを一層深くした。

「そんな名前だったのカ」
休憩時間すぐさま転入生の側へ行ったリンが仏頂面で言った。
「知り合いなのか?」
「うん、休暇中にちょっとね…でもびっくりした」
「それはこっちもだ。まさか同じクラスになるとは思ってなかった」
笑顔の下で「嘘だな」とアルフォンスは断じた。
「でも呼び名はエンヴィーで良いぞ」
「なんで?」
「居候先にヴィーって名前がもういるんでややこしいからさ」
姓のエンデ、の一部を付けてエンヴィー。そう説明すると級友達はあっさりと納得する。
「居候って?」
「ずっと親戚のところを転々としてたんだけど、先頃ようやく姉さんのところに落ち着いたんだ。アルフォンス達にあったのも、たらい回し先のひとつだったと言う訳さ」
「へー大変だったんだなー」
リンが小さく「そう言う設定カ」と呟いたがそれはアルフォンスにしか聞こえなかった。
長い黒髪をひとつに括り、他の学生と同じように制服を着るエンヴィーはどこも怪しいところのない標準的な学生に見えた。
あまりに違和感がないのでかえってリンは警戒していた。
それに気付いたのか、他の級友達には聞こえないようにこっそりとエンヴィーは言った。
「他意はねえよ。別に悪巧みだってしてない。…今の所はな」
「今の所?」
嫌そうな顔でオウム返しにするリンの様子が面白かったのか、愉しそうにエンヴィーは笑う。
「先のことは保証できないってことさ。人生何があるか分からないからねえ」
「…全くダ」
「まあ、よろしく頼むよ」
胡乱な目で一通り転入生を見回して、諦めたように溜息を吐く。
それから何かをふっきったように笑って手を差し出した。
「こちらこソ」
差し出された手を、エンヴィーは妙なものを見る目つきで見た。意趣返しとばかりにリンはにやにやと笑う。
「こちらの風習ではこうあいさつするんではなかったカ?」
ほら、とばかりに手を突き出す。
「…仕方ねえなあ…まあ、よろしく?」
「よろしク」
譲歩してやるんだとばかりに握手を交わす。
双方共に人の悪い笑みを浮かべるのを見て、「まるで共犯者だな」と思ったけれどもアルフォンスは賢明にも黙っていた。

そんなやりとりをしていたものだから、彼らはクラスの次の話題に乗り遅れてしまった。
事前に情報は流れていたにもかかわらず、知らずにいたために予測を立てることはおろかなんの心構えもできずに次の授業に臨んだ。
次の授業は「錬金術概論」。
新任の講師が教室に入ってきた途端、ホームルームの比ではなく愕然とした。文字通り、顎ががっくりと落ちたかのようだった。
講師は教卓の上に教科書と名簿を置いて、黒板に自分の名を書いて振り返る。
「今日から錬金術の講義を担当するエドワード・エルリックだ。質問があれば挙手するように」
チョークの粉を軽く払い、金の髪を揺らして言った。

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