結局、エドワードは折れた。
こうと決めたら引かない頑固さは全くの互角だった。ただ、エドワードの方に致命的な弱点があっただけのことだった。
「…オレはあの顔に弱いんだ」
「………うん、だからトリシャさんにもリィちゃんにも弱いのよね」
「血縁関係ないって言うのはもう確かめてあるんだけどな」
疲れ切った様子で肩を落とす。
「何であんなに似てるんだ?顔も中身も」
「本当に生まれ変わりなんじゃないの?」
ちらりとエドワードはロックベル家の孫娘を見やった。それから、祖母の方も見る。
「何よ」
「…まあ、お前らは直系の子孫だからって言われりゃそれはそれで納得はするけどな」
あと、リン・ヤオも。あれも血縁関係だ。
「どうしてこうも似た顔ばかりが揃うんだろうな」
「え…?あたしも?」
ウィンリィはびっくりして自分の顔に触れた。
生まれてからずっとの付き合いだが、そんな話を聞いたのはこれが初めてだった。
祖母の方を見ると、こちらも驚いた顔をしている。
「もしかして、『最初のウィンリィ』かい?あんたの幼馴染みの」
老ウィンリィの問いかけに、エドワードはどこか困ったような顔で静かに笑った。
「…比べられるようでいやだろ?」
どんなに似ていようが、名前が同じだろうが彼らと目の前の彼らとは全く別の時間を、別の人生を送ってきた別人格だ。
かつての時をなぞるように、似た行動を取り似た声で話し笑い泣いても、それらはぴたりと一致する訳ではない。
どこかしらにずれがあり違いがある。アルフォンスに言ったように、似ているからこそその差違は大きく感じられた。
ウィンリィは泣きそうに顔をゆがめた。
だから言うつもりはなかったんだ、とエドワードは心の中で言い訳をする。
「あんたはバカよ」
「うん。悪い」
「ホント、どうしようもない大バカよ」
ぽんぽんと、小さなリィにするように生身の腕で頭を撫でる。
「うん。100年生きてもこのバカは治らねえ」
「さりげなく自分の年をサバ読むんじゃないよ。四捨五入までにしときな」
「そしたら200になるじゃねえか。増えてるぞ、おい」
「男は実際の年齢より年上に見られたいもんだとばかりおもっていたがね」
「オレの経験上男女を問わずある一定の年齢を越えると若く見られたがるな」
「そのボーダーは?」
「女は20才、男は30才。…って何の話をしてたんだ、オレらは」
はた、と我に返るとウィンリィは肩を震わせて笑っていた。
孫の様子を見て祖母はやれやれ、と苦笑した。
「あんたのことだから、ずーっと年より上に見られることはなかったんでしょ?」
「うるせ。だからそう言う話じゃなかっただろ」
「昔の顔なじみに似たのが多い、と言うんだろ?」
確かめられるのは当時から生きていたエドワードと、ホムンクルスたちくらいしかいないので老ロックベルには推測しかできないがそれも相当に似ているらしい。
アルフォンスやその母親に到っては、血縁関係でもないのに瓜二つだという。
「そう言う星巡りなんじゃないのかい」
悩むことなどとりあえず棚上げにしてしまえばいい、とばかりに言ってやれば、エドワードは眉を顰める。
「星巡り?非科学的だな」
「再現性に欠けて証明が出来ないって意味なら生まれ変わりも同じように非科学的だね」
すっかり冷め切ったお茶を入れ直してやりながら老ロックベルは言ってやった。
「科学的だろうがそうでなかろうがどうでも良いのさ。あんたの姿勢が前向きになってくれればね」
ひょい、と目の前に出された指をエドワードはつい見詰めた。
「オレの?」
「そうそう。これはひとつのチャンスだと思えばいいんだよ、エドワード」
もしかしたらこの先も無数にあるかもしれない機会の一つ。ただそれだけだと思えばいい。
「ずいぶん長い間、あんたは元の身体に戻ることを諦めてきたんじゃないのかい?もう誰も知らない大罪とやらの報いだと思いこんで」
反論しようとするその口を指先で押さえて老ロックベルは続ける。
「だからね、挽回のチャンスが来たんだと、そう思えばいいよ」
ことばの意味を反芻するように、エドワードの肩から力が抜けた。
今度は逆に、ウィンリィがぽんぽんとエドワードの頭を撫でた。ゆっくり考えなさい。小さな子供に言い聞かせるように、微笑んだ。

一方その頃、アルフォンスとリンは帰途に就いていた。
「まあ言っても無駄だとは思うが、一応一度は言っておク」
不意にリンはアルにそう切り出した。
「何?」
「リゼンブールを離れて、中央に戻ったラ、エドのことは忘れロ」
その言葉にびっくりして、思わずアルフォンスは足を止めた。
意外なまでにリンの表情は真面目だった。
「不死の人間に常命の人間が関わることは出来なイ。世界が違ウ」
「…まさかリンにそんな事を言われるとは思わなかったな」
「昔からシンではそう言われていル。良いことはないト」
リンは緩やかな坂道をゆっくりと下る。アルフォンスもその数歩後を追って歩く。
「人間(じんかん)で得た富や権力をすべて捨てなければ不死の世界には入れなイ。昔、不老不死を望んだ皇帝がシェン・シァンにそう諫められタ。」
「シェン・シァン?」
聞き返されるとしばし中空を見て考え込んだ後に答えた。
「こちらの言葉で言えばフェアリーかナ?」
「妖精(フェアリー)?」
皇帝に諫言するとはシン国の妖精は随分と重々しいんだなと思った。アルフォンスのイメージする妖精は大抵が軽やかだ。
「忠告はありがたいけど、ボクは別に不老不死になりたい訳じゃないんだ」
「分かっていル。アルはエドの傍にいたいだけだろウ」
「うん、そうだよ」
あっさりと言葉が流れる。けれども、その一つ一つは重要だから、細心の注意を払ってアルフォンスは繰り返す。
「ボクが彼の傍にいたいだけなんだ」
「どうして、とは聞かなイ」
「聞いてくれないの?」
「聞いても仕方のないことだろウ」
「でもそこは礼儀として聞いてくれないと」
「なんの礼儀ダ?!この国にはまだ俺の知らない礼儀作法があったのカ?!」
留学前に国許でさんざん一般常識及び礼儀作法をたたき込まれた地獄の日々を思い出して頭を抱える。
そんな友人の様子を見てアルフォンスは笑う。
「リンの言うとおり、不老不死のエドワードの傍に、普通に年を取っていつかは死んでいくボクがいるのはエドワードにとっても辛いことだと思う。エドワードが辛ければ、ボクも辛い」
夕まぐれに影が長く伸びる。アルフォンスは少し足を速め友人の隣に並んだ。
「だから、ボクはエドワードを不死の世界から引きずり出してやろうと思ったんだ。エドワードのためじゃなくて、ボクのエゴで」
「不死の世界、カ」
そう言われると、リゼンブールはまるで仙郷のようだった。
緩やかに閉ざされた穏やかな村は、時の流れないエドワードを匿い受け入れ、外の世界から守っている。
「それがエドワードにとって良いことなのか悪いことなのかは分からない。でも、とにかくボクがそうしたいんだ」
「そうカ。…まあ予想はしていたガ」
わざとらしくリンは溜息を吐く。
「とりあえず、頑張レ。多分相手は手強いゾ」
「覚悟はしてるよ」
長期戦で行くつもりだよ、と笑って見せた。
「まずはどうすル」
「んー…親に心配かけるな、って釘を刺されちゃったからね。まずはちゃんと学校卒業して錬金術師の専門機関に進むつもり」
前々からおぼろげに目指してはいたしね。そう聞いたリンの目が遠くをさまよった。
「何?」
「………いや、まあ、うン。良いんじゃないか、それデ」
どこか何かに呆れたようなリンの様子に首を捻りながらも、アルフォンスは伸びた影を追い越して言った。
「やれることから地道に行くよ。時間はあるしね」

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