「それじゃあエドは不老不死なのカ?」
改めてリンがそう問えば、何を今更と何故かエドワードはふんぞり返る。
「だからそう言ってるだろうが」
「どうしてもそうは見えないからつい確認しタ。」
「そうね。今年で171才になるって言う男には見えないわよね」
「悪かったな一向に成長の跡が見られなくって」
「それもあるけド」
またもや恒例のどつき漫才に突入しそうな二人の間に無理矢理割り込む。
「不老不死を望むような人間には見えなイ。それとモ、望まずにその身体になったのカ?」
「結論から言えばそうなるな。」
あっさりと答えた。
「賢者の石は願いを叶えるんじゃなかったのカ?」
「願いなら、叶った。」
この諦めたような笑顔を、どこかで見たような気がする。アルフォンスはわずかに奥歯を噛み締めた。
「その辺りも最初から話した方が良いんだろうな。
…弟の身体とオレの手足を取り戻すためにオレは国家錬金術師になった。国家錬金術師は今とは全く違う制度で、当時は軍属だった」
「そうなのカ?」
「高額な研究費や資料の閲覧なんかの特権と引き換えに、軍に忠誠を誓い、いざとなれば戦場に出て人間兵器としてその力を振るう。そう言うもんだ」
歴史で習ったろ、とエドワードはアルフォンスに笑いかけた。
アルフォンスはようやくぽつりと一言だけ呟く。
「…軍の狗」
「そうだ。『錬金術師よ大衆のためにあれ』というモットーに反して金と権力に目が眩んだ輩と言うことだ」
「今とは全然違うんだナ」
「そうだな」
「それもエドには似合っていない気がすル」
素直にリンがそう言えば、エドワードは自嘲を消して驚いたような顔をする。
「田舎の錬金術師の方が似合っていル。人間兵器なんて言われても想像も付かなイ」
「それは褒めてるのか?」
「正直な感想ダ」
「そうか。…まあいいか。あーとにかく。オレは似合ってようが似合っていまいが軍の狗になったんで、情報源は自然軍部よりのもんが多かった。
で、軍が賢者の石を製造しているという情報を得てしまった」
「そんな歴史は習った覚えがないけど」
「絶対表に出しちゃいけない歴史だからな」
「そうかな。賢者の石を作れるほどの技術を有してたって事なら良い宣伝にもなりそうだと思うけど」
首を傾げる現代っ子にエドワードは苦笑する。
「無理だって。何せ軍の作ってた賢者の石の材料は人間の命だったんだから」
それも複数。言ってからエドワードは苦汁を飲んだような表情で俯いた。
アルフォンスはしまった、と言う顔をした。だがもう言葉は元には戻らない。
俯いたまま、エドワードは昔話を続ける。
「そんなんだったから、オレはいったんは賢者の石を諦めかけた。そうして、別のアプローチを取ることにした。
そもそも、『賢者の石』とは何か。原点に戻って考えてみた。哲学者の石、化金石、第五元素、錬金液(エリキシル)、様々に呼ばれる永久不変の無限の触媒。
資料を改めて洗い直してその特徴を調べ直した。すると、こんな一節に行き当たった。」
顔を上げ、謳うようにそらんじる。
「賢者の石は、世界中にあまねく見いだされる。万人がそれを持つが、誰もがそれに気付かず、忌み嫌う。それは人間の魂の次に位置するもので、大地の上でもっとも美しく貴重なものである。」
金色の目が煌々と輝く。
錬金術師にとっては重要な内容なのだろうが、門外漢にはさっぱり意味が分からない。
実を言えば錬金術師の端くれであるアルフォンスにも意味を測りかねる内容だった。一般常識からも錬金術師的常識からもかけ離れている。
地上の常識など軽々と超越する天才錬金術師はなおも続けた。
「つまり、賢者の石はそこら中にありふれてるものだと言うことだ。
そしてもう一つ。錬金術を成立させているものは何か、と言うことを考えた。」
今度ははっきりとアルは首を傾げた。
「何かって?」
「たとえば、このナットを指輪に錬成する」
パン、と手を打って机の上に転がっていたナットを酷く個性的な指輪に変えた。
「趣味悪…」とウィンリィが呟くのが聞こえた。
「ナットと指輪は等価だ。」
「…ナットの方が役に立つわ」
「それを言ったら指輪の方が格好いいじゃんか」
「どこが!?あたしは絶対いやよこんな指輪!後でちゃんと元に戻してよね!」
「役に立つとか金銭的価値があるとか、そう言う事じゃないよね。要は錬金術は等価交換で、一からは一しか作れないってこと」
アルフォンスがフォローを入れて脱線した話は軌道に戻る。
「そうそう。ナットは指輪と等価交換。んじゃ、それを変えた力はどっから来たのか、って考えたことはないか?」
もう一回、と手を打って指輪を今度は細長い棒に変えた。
そうしてその棒を両手で持ってぐにゃりと半分に折った。
「棒を二つに折ったのは、オレの両腕の力だ。力は腕を伝わって棒にかかってその形を変えた。それは良いな?」
「ええと…?」
「錬金術も同じ。対象に錬成陣を通じて力を伝えて形を変える。では錬成陣に力を伝えるものは何だ?」
何だと言われても、考えても見なかった。リンは思わず傍らの友人を見た。
アルフォンスも呆然と言う。
「何って…錬成の力は錬成陣に伝わるものだとしか思ったことしかないよ」
「そうだな。錬金術師なら尚更そうだ。」
エドワードは棒をナットに戻すと手の平の上で転がしてみせた。
「感覚で身に付いているもんだから、改めてそれが何かを考えてみることが殆どない。
それはそこら中に満ちていて、世界中を循環している。錬成の力を伝えもするが、それ以外でも意識されることは殆どない。
錬成の際もそれ自身は考慮には入れられない。それ自身は錬成に何の影響も受けず何も変わらない。
そう考えると、「それ」は賢者の石に似ているような気がした。」
ナットをひょいとウィンリィに放った。
「それはまたエーテルともエラン・ヴィタールともプネウマともスピリトとも呼ばれる。
オレはそれを凝集し精製し結晶化させてみようと考え、実際にやってみた。すると思ったとおり、それは真紅の石の形を取った」
「じゃあ…それが」
「そうだ。オレが作り出した賢者の石だ。それはある一点を除いては完全なものだった」
思わず息を呑むと、エドワードは苦笑した。
「ひどく不安定だったんだ。まあそこら中にあるもんかき集めた訳だから、すぐに拡散したがるってのも予測は付いてはいたんだけどな。
そこで今度は「賢者の石」として固定して存在させるための方法を考えなくちゃならなかった。
で、軍の作っていた『賢者の石』がヒントになった。」
また話が急展開をみせる。
「軍の作っていたとは言うが実は一人の錬金術師が作ったものが元にあってな。そいつが研究していた賢者の石がどうしても不完全だったんで、裏から軍を乗っ取ってその研究に利用してた訳だが」
軽い調子で裏アメストリス史を披露する。
「まあ根本が間違っていたんだけどな。それは人の命で等価交換先払いしていただけであって、決して無制限の触媒じゃなかったんだから」
「そうなの?」
「うん。少なくともオレの見たところではそうだ。先払い分を使い切れば、その石は使えなくなる。そう言うもんだった。
所が作った奴はそうは考えなかった。石が不完全なのは不純物が多いから、もしくは力が足りないからだと考えて研究に研究を重ねた。
そうして出来上がった石は自らの力に耐えかねて不安定だった。
…そこで奴は、安定させるのに人間を使った。」
錬金術師から一切の表情が消えた。
「人間の身体を器として賢者の石を安定させ制御しようと考えた。それは一番最初はうまくいったが、誰でもうまくいく方法ではなかった。
ほとんどの人間が賢者の石の力を支えきれずに精神なり肉体なりを崩壊させた。
では、最初から賢者の石に合わせた『人間』を作ればいいのではないか。そう考え、賢者の石を『核』にして人造人間…ホムンクルスを作った。
これはうまくいったが、賢者の石の力を制限することになった。錬金術の触媒としての力は弱まり、特定の能力のみに秀でたホムンクルスしか作れなかった。」
その人造人間の一人が昨日のグリードという男だろうと言うことは察しが付いた。
「…是非はともかく、そのことをヒントにしてオレは賢者の石を安定させるのに自分の身体を使った。
案の定うまくいって、オレは弟の身体を取り戻したんだ。」
そこまでは良かったんだけど。
「何か不測の事態でモ?」
「不測っつーか…その人命由来賢者の石作った奴のな、その核になってた石。それも取り込んじまってな」
「は?」
「長い間沢山の命取り込んで肥大化してて、下手に扱えば一国吹き飛びそうなくらいになってたんでオレの中の賢者の石に溶かし込んだ。
少しずつ循環させて無力化させようと思ったんだけど…落ち着いてから計算してみると数千年かかる計算で」
言ったろ、そいつが裏から軍を支配していた、と。
そう言われて150年前に起きたこの国の体制転換の意味に改めて気付く。
「オレはアルの身体とオレの手足と元に戻したら賢者の石は取り出して発散させちまおうと思ってたのに、それが出来なくなっちまった。
ついでに賢者の石はこの上なくオレの身体に馴染んでしまったもんだから、賢者の石が永久不変であるように、オレ自身も不老不死になっちまった。」
稀代の天才錬金術師は、深々と溜息を吐いて肩を落とした。

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