二人の行方はすぐに知れた。
ウィンリィが息を切らせて駆け込んできたのは、それからすぐだった。
「エドを、…連れて来いって…何か、見たことない人…が…」
「落ち着け、ウィンリィ。」
「アルと、リィちゃんを連れて行ったの」
必死でウィンリィはエドワードにすがった。
「俺に来いと言ったんだな?」
「うん。…村の外れの風車小屋。今は壊れて使ってないやつを、十数人くらいで占拠してる。」
エドワードは硬い表情で頷いた。
「エンヴィー」
「間違いなくグリードだね。あいつ、ダブリスでごろつきどもまとめ上げてるって話だから」
そう言ってからウィンリィに笑いかける。
「大丈夫だよお嬢ちゃん。そんなごろつきが何人いようと心配ないよ」
小さな子供にするように、ゆっくりと髪を撫でてやる。
エドワードは、コートを取り上げて玄関に向かう。
「待って!あたしも行く!」
「お前はここで待ってろ。エンヴィー、付いててやってくれ」
「え?一人で行く気?あいつに挨拶くらいはするつもりだったんだけど」
「と言うか俺を忘れちゃいませんかネ」
ひらひらとリンが手を振った。玄関先でエドワードは困惑半分いらだち半分と言った顔で立ち尽くす。
「一人で来いって言われた訳じゃないんだロ?」
「うん、その辺は特に言われてないわ」
「裏手から奇襲でもかけてみル?」
「あ、それなら裏口に回る良い道知ってる!内側からはがらくた積んであって見えなくなってるの」
「いいねえ、そしたら二手に分かれて突っ込むか」
嬉しそうにエンヴィーが手を叩いた。
「待て待て待てお前ら、どうして俺が話し合いで解決しようとしているとは思わない?ケンカ前提で話を進めてるんだ?」
痛む頭を押さえつつ、エドワードが口を挟む。
「だってケンカするんでしょ」
「徒党を組んで押しかけてきて、その上人質とった時点で鉄拳制裁確定済みだと思ってたけど。」
ウィンリィとエンヴィーが当然のように答える。
質問されたことの方がかえって不思議だとでも言わんばかりの表情だ。
「話なんか聞いてたまるかって顔してル」
リンに指摘されて顔に手をやる。
表情をコントロールできてないと言われたのは昨日のことだったはずだ。
付き合いの長いエンヴィーやウィンリィに言われるならまだしも、出会って1週間かそこらのリンにまで言われてしまうとは。
「…そんなに顔に出てるのか、オレ…」
己の人生顧みて、静かに深く落ち込んだ。まるで成長していないと断言されたような気がして情けなくなる。
「そう言うことだから、諦めて連れて行きなさイ」
慰めるように肩を叩かれても。
覚悟をつけた様子で大きく息を一つ、吐いて顔を上げた。
「分かった。オレとエンヴィーで正面から行くから、リンは裏手から適当なタイミングで突っ込んでくれ。」
そうして釘を刺すようにエンヴィーに向き直る。
「分かっちゃいるだろうが、殺すな。戦力は削いでも致命傷は残すな。」
「加減する方が難しいんだけどなー」
「うっかり『あ、やっちゃったぁ』はなしだぞ?」
「なるべく気をつける」
「気をつけるのはオレにばれないようにじゃないぞ、殺さないように気をつけるんだ、分かってるな?」
「あははは分かってるって」
笑って誤魔化したようにリンには見えた。
冷めた目で見るエドワードの心のメモに『要注意』の文字が書き込まれた。
「ああそれからウィンリィは、リンを案内したら家に戻れ。」
「何で?!」
「お前に何かあったら、オレはまたお前の親父さんに何を言われるか」
「何よそれ!」
自分の目の前でアルとリィを連れ去られたウィンリィは食い下がろうとした。
自分の目で、二人の無事を確かめなければ気が済まなかった。
だがエンヴィーがその間に割り込んだ。
「そうじゃなくてさ。お嬢ちゃんが怪我したりしたら、誰がこいつの機械鎧を修理するんだって」
コンコンと軽く指でエドワードの右肩を叩いて言う。
「ケンカだよ?相手はちんぴらだよ?きっと派手に壊すよー」
エンヴィーのあおりに、整備士はぎっとエドワードを睨んだ。
「でもってお嬢ちゃんがいたら、壊す確率は高くなると思うんだよね。この人、目の前にいるもの何でも庇うから」
からかい混じりで続く台詞を聞いて、はっと目を上げる。エドワードは、居心地が悪そうに目を逸らす。
「…分かった。部品揃えて待ってる。」
「おう。」
やっとの思いでそう言うと、ぶっきらぼうな答えが返る。
機械鎧の方の手で、軽く髪を撫でられた。
「それじゃ行くか。」

一方その頃。
「もういい加減に睨みつけてくるの止めてくんないかな」
今は使われていない風車小屋の内部は、案外に広かった。
アルフォンスとその男との間は結構距離がある。押さえつけてるこの手下を振り切っても、数歩ある。
彼につかみかかるよりも早く他の奴らが動くだろう。
「この状況でどう友好的になれと?」
妹は、男の背後でまた別の手下に捕まっている。
誰も彼も、進んで自分たち兄妹を傷付けようとはしないのは不幸中の幸いなのか。
それでも、アルフォンスの両手首は縄で拘束されていて、首筋にはナイフが当てられている。
グリードと名乗った首領らしき男は、肩をすくめた。
「まあ無理だろうな。が、諦めてくれ。取引相手は油断ならない奴なんでね。」
「人質なら、ボクだけでも充分だろう。妹は解放しないか」
「悪いな、俺から見りゃおまえさんもあの野郎並みに油断ならねえんだわ。」
慎重なたちなんでね、とうそぶいた。
アルフォンスは目をすがめる。
「おまえさんはあいつと有利に話を進めるための保険で、妹さんはお前に大人しく保険になっててもらうための保険。だから解放は出来ない。」
見極めるように凝視するアルフォンスに、グリードは喉の奥で笑った。
「相手は何せエドワード・エルリックだ。用心に用心を重ねておいて損はない。」
「どうして!どうして知ってるの!?」
「リィ…?」
妹が悲鳴のような声を上げた。押さえつけている女が慌てて腕に力を込める。
グリ−ドは振り返って、ちょっと驚いたように目を瞠った。
「おや。嬢ちゃんは知ってたか。」
「それは外の人に絶対に言っちゃいけない秘密なのに!どうして!」
「…秘密って…何が…?」
「んでもって兄ちゃんの方は知らなかったのか。へぇ、これは面白い」
愉しげに笑うグリードをよそに、アルフォンスは彼の発言の中に「秘密」を探す。
該当しそうな言葉と言えば。
「…エドワード・エルリック…?」
「ああ、そうとも。あの、エドワード・エルリックだ」
「鋼の錬金術師?…でもそんなバカな…」
「そう思うのも無理はないがな。どういう訳かあいつは伝説の人物になっちまってる」
150年前、この国が大きな転換期を迎えた際にふっつりと姿を消した錬金術師の名に、アルフォンスは動揺する。
軍事政権がその当時の独裁者の突然の死を持って瓦解し、国家は混乱の渦にたたき込まれる。
それに乗じた近隣諸国の侵入・介入を退け、今の共和政体の基盤を築き上げた立役者の一人であると同時に、アメストリス各地に様々な逸話を残してもいる。
その土地の悪者を懲らしめてくれるヒーロー。災害の際にはその錬金術で皆を救ってくれる。
別な昔話と混ざりながら、色々な彼の物語は、アメストリスの子供ならば誰でも一つは聞いたことがあるほどに広まっている。
「…確かに金髪金目で鋼の義肢だ…でも」
「150年前の人間が今も生きているなんてありえない、か?」
男の向こうで、妹が泣きそうな顔をしているのが見えた。
あれは本当の秘密を暴かれた顔だと知っていた。
「ありえないなんて事は、ありえないんだよアルフォンス」
わざわざアルフォンスの顔を覗き込んでグリードは笑った。
「あいつは賢者の石を持ってる。そのおかげで不老不死なのさ」
「どうして…?どうしておじさんは知ってるの?」
「…まあお兄さんって年でもないが、かと言っておじさんと呼ばれるのも結構傷つくもんだな、おい」
リィの必死の問いかけに少々気分を害したように呟いた。
「おじさんは150年前からの知り合いなのさ。だから知ってるんだよ」
「え…?」
「俺はあいつと違って生まれた時からこのなりで、人より丈夫に出来てるもんだからの長生きだけどな。
まあそのおかげで面白いものも見られたし」
グリードはアルフォンスの目を覗き込んだ。硬質な橄欖石の瞳に、自らの姿が映っている。
「人間が生まれ変わるもんだとは知らなかった。長く生きてみるもんだな」
「何を言って…?」
「おまえさんはあいつの弟にそっくりなんだよ。まるで生き写しにな」
髪の色と眼の色は違うがあとは何から何までそっくりだ。
「だからお前はあいつに対しての最大の切り札になる。それがお前を人質に選んだ理由だよ」
「生まれ変わりって…そんなバカな…」
「うん、まあ俺も確信はしてないけどなあ、他人のそら似ってのもあるし。大体魂が同じかどうかなんて確かめようがねえ」
そう言ってグリードは立ち上がる。
「でもなあ」
ざわりと空気が変わる。
「魂の錬成が可能な錬金術師になら、その魂の判別も付くんじゃねえか?」
ばん、と乱暴に扉が蹴り破られる。途端に射し込む外光に、アルフォンスは目を細める。

「なあ、鋼の錬金術師?」

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