列車ががたりと大きく揺れて、リン・ヤオの顔の上に乗っていた雑誌をずり落とした。
「着いたのカ?」
「いいや、あと3駅」
「遠いナ」
向かいの席でアルフォンスは苦笑した。読んでいた本にしおりを挟む。
「シン国ほどじゃないさ」
「そりゃそうダ」
リンも軽く肩をすくめる。
再び動き始めた列車の窓から見える景色は、ゆったりとした丘陵地帯が続く。
人と建物であふれかえったセントラル・シティから離れるにつれて空と緑の丘の面積が増えてきた。
幾つかの地方都市とのどかな田園地帯を抜けて、その向こうに目的地のリゼンブールがある。
手紙によるとそこは人より羊の数の方が多いらしい。思い出してアルは小さく笑った。
「何?」
それを見とがめてリンは怪訝そうに尋ねた。
「いや、ウィンリィの手紙を思い出してた。」
「もうすぐ会えるだろウ」
「うん、リンにも会いたがってたからきっと喜ぶよ。」
アルはいっそう笑みを深くする。
「身体の調子は良いのカ?」
「手紙に拠ればね。どうやらリゼンブールの空気が合ったみたいだ」
「そうカ。なら元気なウィンリィに会えるナ。」
リンもほっとしたように笑った。
小さな頃から身体の弱かった妹のウィンリィが、療養のために母とセントラル・シティを離れてからしばらく経つ。
中央の学校に通うアルフォンスのもとに何通もの手紙が届いていた。
初めのうちは友人や兄と別れてしまった心細さや寂しさが綴られていたが、だんだんと慣れてきたのかリゼンブールで新しくできた友達のことや、リゼンブールの風物に触れた驚きや発見が増えてきた。
穏やかな気候も肌にあったと見えて、身体の調子も良いらしい。添えられた母の文章からもそれは窺えた。
アルフォンスが休暇に入ったらきっとリゼンブールに行くと、おそらくその際にはリンも一緒だと書いたら、目に見えてはしゃいだ手紙が返ってきた。
会わせたい友達やとっておきの場所がたくさんあるのだという。
「でも本当に一緒に行っても良かったのカ?」
「ここまで来ておいて何を今更。」
「それはそうだがナ」
半ば強引に付き合わせたようなものだけど、とアルフォンスは苦笑する。
「君のことくれぐれもよろしくとランファンさんにもフーさんにも言われているし」
「1ヶ月くらい大丈夫だっテ」
「…野放しにしておくと不安なんだと思うよ」
「人をなんだと思ってル」
「じゃあボクの知ってるセントラルでの君の行状洗いざらい報告してしまっても良い?」
「…すみません大人しく休暇中ご厄介になりまス」
リンは神妙に頭を下げる。
実際、あれやこれやそれやどれやをお目付役に知られたら、アメリストリス留学は即効中断、直ちに国元へ強制送還されてしまうだろう。
そのくらいの自覚はリンにも流石にあった。
手元でくるくると丸めては広げて玩んでいた雑誌を自分の鞄に押し込んだ。

(220505)
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