#1
エドワード・ノヴァーリス(5才)はご近所でも評判の頭脳明晰なお子さんだった。
そんな彼でも持て余す悩みを、同じく賢いと太鼓判を押されるロイ・マスタング(5才)に打ち明けた。
「あのさ、オレ、何か結婚申し込まれたんだけど」
「けっこん?」
端で大人しくしていたリザ・ホークアイ(3才)が小首を傾げる。
「けっこんてなに?」
「それはな」
「つまり嫁になれと」
エドワードがリザに説明するより早くロイは端的にエドワードの状況を確認した。
エドワードが苦々しい表情で頷いた。
「およめさん?」
リザの顔がぱぁっと輝く。結婚の意味はよく分からなかったがお嫁さんは知っていた。
とてもきれいで嬉しそうで、見ていたリザも嬉しくなってしまったのをまだちゃんと覚えている。
なお、その遠い親戚のお姉さんの結婚式でロイたちとエドワードは初めて顔を合わせた。
「エドくんはおよめさんになりますか」
「ならないならない」
「どうしてですか」
「リザ、結婚は好きな人同士でするものなんだよ」
真面目な顔で一般的には正しい事実をロイはリザに教えた。
だがその目が面白そうに笑っているのをエドワードは決して見逃さなかった。
大体、質問に対する答えとしてそぐっていない。他人事だと思ってとことん楽しもうとする魂胆がありありと見て取れた。
「おいこら。そんなこと言ってて良いのか?」
「嘘は教えてないだろう」
「たしかに嘘じゃあないけどな、初対面で人を女と間違って将来を約束するよ、とまで言ってきた奴が言うセリフじゃねえんじゃないか?」
ご丁寧にその時の口ぶりまで再現してみせるとロイは言葉に詰まった。
正直一生の不覚だった。…5年間の生涯ではあるが。
「だがあれは仕方ないだろう!」
「まーなーあれは仕方ないかなと思うよ、オレも」
エドワードは花嫁の裾持ち役の女の子がおたふく風邪にかかったとかで急遽代役に仕立てられた。
スカートは断固拒否してどうにか免れたが、ちょっと油断してよそ見をした隙に髪に花を飾られていた。
それに気付くこともなく最後まで大役を果たしたおまけに、リザの心からの感嘆の表情と、ついでにロイのナンパも受けることとなったのだった。
そんなやりとりを耳に入れることもなく、一生懸命考えていたリザは顔を上げた。
「エドくんはリザのおよめさんになってくれますか」
どこまでもリザは真剣だった。
「えー…っとな、リザ」
「…多分、無理なんじゃないかな」
「どうしてですか」
泣きそうな顔でリザはエドワードの服の裾をぎゅっと掴んだ。
泣きそうだが絶対に泣かない、その顔にはエドワードのロイも弱かった。
おろおろと狼狽しだしたエドワードに、同じく慌てふためいたロイがどうにか話を別な方向へ持って行こうとする。
「ほら!お前他の奴に結婚を申し込まれたんだろう!?それでどうしたんだって?」
いささか逆効果のような気もした。
追いつめられるとあらぬ方向へ走り出すのはいつものことなので今更怒るのもバカらしいと、エドワードは溜息を吐いて答えた。
「どうもこうも。相手はもう立派な大人の男なんだよ。なのに子供で男のオレにお嫁さんになって、てのはおかしいと思わないか?」
「おかしいというか」
「それ以外ではかなりいい奴なんだよ。」
隣に引っ越してきたアルフォンス・エルリックを思い出して、もう一度深く深く溜息を吐く。
「背は高くて格好良いし、全然バカじゃないし本も新聞も読んでる。性格もすごく良い」
女子供に対しても相手を侮ることは決してなく、礼儀正しくそつがない。
世のお母さんが息子はこう育って欲しいと願い、お姉さんがこんな弟が欲しいと願うそのまま現実になったような青年だった。
「でも、お前にお嫁さんになって、と」
「ああ」
「…それは、変態じゃないか?」
「…やっぱりそう思うか。あるいは変質者だよな」
アルフォンス・エルリックの読みは甘かった。エドワードも、その友人のロイも平均的な5歳児とはかけ離れたところにいた。
基本的にはお子様ではあったが、大人が思っているよりはずっと物事を知っていた。
「…へんたいってなんですか」
声に涙を絡ませてリザが尋ねた。
意味は分からないけれども、何だかろくでもないものだと思った。
「おとこのこにおよめさんになってといったら、へんたいですか」
「あ。…いやそのあの」
「リザもエドくんに言いました。リザも、へんたいですか」
「いや!それは違うから!全然!全く!」
「そうだ、リザ、安心しろ!と言うか泣くな!」
本格的に嗚咽し始めようとする少女を必死でなだめる。
「…っ、っじゃあ、およめさんに、なってくれますか」
「なれるもんなら何にでもなってやるから!だから泣くな!泣きやめ、な?」
そうして、アルフォンスのあずかり知らぬところで最大最強のライバルの萌芽が芽生えることとなった。
(141206/掲示板)

#2
「今日もバイトか?」
たまたま通りかかったエドワードがヒューズに声をかける。
参考書を広げてのノート作りにそろそろうんざりしてきたヒューズは手招きした。
何やら難解な題名の分厚い本を何冊か抱えて、とことこと歩み寄る。その様子は一見微笑ましい。
「何か飲むか?バイト代が入ったからおごるぞ」
「え、いやいいよ」
「そんな薄給じゃないのは知ってるだろうが。遠慮するなって」
「あー…いや、やっぱ後輩におごってもらうのはやっぱどうかなって思うから」
それにさっきお茶もらったばっかだから気持ちだけ頂いとく。そう言って笑う。
そうなのだ。目の前のこの小さなお子様は、マース・ヒューズの先輩にあたる。
エドワード・ノヴァーリスはアメストリス史上指折りの天才児と言われ、スキップにスキップを重ね12才にして大学院に在籍する。
専攻は錬金術で、錬金術師でもあり、かの「鋼の錬金術師の再来か」とまで言われているがその正体は案外普通のお子様だった。
…と言うと他人からは結構引かれる。
エドワードに対してはその頭の回転の速さで一線を引くものが多い。数少ない例外がヒューズだった。
「…それに、ロイの相手をするんじゃいくらもらってたって割に合わねえだろ」
エドワードも、こうしてヒューズに気遣いを見せるくらいに懐いている。
子供の苦笑に思わずヒューズはテーブルに突っ伏した。
「お前と言いあいつと言い、あんな12才ばっかでこの先どうなるんだよこの国」
「オレとあいつをひとくくりにするなよ」
「ほぼ同類項じゃねえかお前ら!」
「爪隠すことを知ってる分、ロイの方がたち悪いと思うんだがどうよ」
「いーや良い勝負だ。…まあ確かにお前の方が割合素直だよなあ」
手を伸ばして金髪をかき混ぜるように撫でる。
ヒューズのアルバイトは家庭教師だった。相手はロイ・マスタング。エドワードの幼馴染みだと聞いたのは後になってからだった。
知っていたらあるいは引き受けなかったかもしれない。
エドワード並みの明晰な頭脳と輪をかけてひねくれた性格の持ち主だったのだ。
「うん、まああいつも色々とストレスたまるんだと思うよ、親戚連中からのプレッシャーもすごいみたいだし」
大人しく撫でられながらエドワードは苦笑する。推察はするものの、付き合いの長いエドワードにもロイが愚痴をこぼすことはなかった。
「あんたならあいつの愚痴も聞いてやれるんじゃないか?あいつの家庭教師の最長記録更新中だろ」
「…あんまり家庭教師らしいことしてねえけどな」
「だって必要ないじゃんか」
きっぱりと言う。つまりそれは家庭教師としての自分は力不足だと言うことだろうかとヒューズは落ち込んだ。
「家庭教師は必要ないかもしれないけど、あんたは必要だと思うんだよ。まあ、勘だけどな」
「あんま嬉しくない勘だな」
「そう言うなって。…オレもさ、自分のとこだけで手一杯であいつのことはリザ一人に押し付けちまってるからさ」
ヒューズは首を傾げる。
「…良く分からんがお前くらいの年の子供は大抵自分一人でいっぱいいっぱいなもんだぞ。友達に気を配ってるだけでも大したもんだ」
エドワードは小さく礼を言った。
「オレは早く大人になりたかったんだ」
「それでとりあえず進学したのか」
とりあえずのレベルが世間様とはかけ離れてはいる。だがその表情は真摯でそんな茶々を入れる隙はなかった。
「他に方法とか分からなかったから。できることをまずやれるだけやってやろうと思ったんだけど」
ヒューズのように机に本を置きその上に自分の頭を載せる。
「…大学は面白いし研究も面白いけど、大人になるってのとは違った」
「そりゃそうだろうなあ」
「大人になったら、…もっと近くなるかと思ったんだ」
ほとんど呟くような声だった。
「なにがだ?」
「んー…距離の問題かな」
エドワードはヒューズに向かって手を伸ばす。けれども長さが足りずヒューズには届かない。
「まあ諦めるつもりはないけどな」
「…何のことかはよく分からんが、まあ頑張れ」
もう一度手を伸ばしてヒューズは子供の頭を撫でた。
(311206/掲示板)

#3
最近、エドワード・ノヴァーリス(12)は料理に興味を持っていた。
母親の後をくっついて回っては様々な手順を覚え、料理書を片っ端から漁っては開いている。
「前々からいろんなことに興味持つ奴だな、とは思ってたが、何故料理だ?」
幼なじみの腐れ縁、ロイ・マスタング(12)は首をひねる。
「え、面白くねえ?あの食材がああ変わるのかとかこうやるとあの味になるのかとか」
「まあ、出来て悪いことはないだろうなあ」
年下の先輩が人並みなところで興味関心を持って年相応に目を輝かせているのを見てマース・ヒューズ(19)は内心ほっとしていた。
それなりに親からのささやかだがありがたい仕送りの元でやりくりする一人暮らしの学生の立場で見ても、料理は出来ないより出来た方が良い。
同じ歳で同レベルの相手にはつい張り合ってしまう気質のロイは、少しむっとした。
ヒューズがエドワードの側についたのもどこか気に入らなかったようだ。
そう思うのは大抵ロイ一人だけで、エドワードもヒューズ本人も、割と常に中立だと思っている。第三者的にもそう見られている。
「お前だってじゃがいもの皮むきくらいは出来ておいた方が良いと思うぞ」
そうエドワードが言ったのも全く他意はなかったのだ。
だが、ロイの反発心に油を注ぐには充分だった。
「イモの皮が剥けなくても生きていける」
…反発と言うにはあまりにも情けないセリフしか出ては来なかったが。
ヒューズは思わず苦笑しかけたが、エドワードは至極まじめな顔で相槌を打つ。
「そうだな、結局イモは皮ごと蒸かしたふかしたてのほくほくにバター落として塩ふったのが一番うまかったりするもんな」
「…何か違わないか?それ」
「結局は原点に帰るって奴だな」
「………うん、まあそうだろうけどさ」
その日のヒューズの夕食が蒸かしたじゃがいもだったことは言うまでもない。

ちなみに、エドワードが料理に興味を持ったのは一人暮らしの隣人の食卓が意外といい加減だったから、と言うのは彼の妹と母親のみが知る事実である。
(280707/掲示板)

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