では、作法通りに「昔むかし」で始めよう。

昔むかし、あるところにひとつの王国があった。
それはひとつの小さな石造りの城と、ぐるりと城壁に囲まれた街と、城壁の外に広がる畑、それから森と山からなる国だった。
城は頑健だが昔ながらの作りで手狭で素朴、けれどもそこここに小さな先人の知恵があったので案外と住みやすい。
街と言っても城門から中心の広場へと真っ直ぐに貫く大通りが一本、しかも城門をくぐってすぐに広場まで見通せる程度の距離だった。それに沿ってパン屋や肉屋や鍛冶屋や雑貨屋や、とにかく一通りの店が軒を連ねている。都会から来た人間に言わせれば華やかさに欠けた。
広場は城と教会とに面していて、どちらも年代物の上っ面を晒していた。もちろん中身も年代物だったが。
畑もそんなに広くはない。一番端まで教会の鐘の音が届いた。まあ、それだけあればこの小さな王国の腹を満たすのに充分だ。
城の後背に鬱蒼と繁る深い森と人をよせ付けぬ風情でそびえる山には、余所の国の人間は足を踏み入れようともしなかった。
森には妖精が棲んでいるだとか、山では魔女が集会を開いているだとか、そんな噂がまことしやかに流れていたからだ。
実際の所、王国の者もそう滅多に森には入らなかった。ただ春先に木の芽を摘みに行ったり、秋に木の実を拾いに行ったりはしたが奥の方へは入らない。どうしてと聞かれれば、「妖精に遠慮をしているのさ」とでも答えただろうが、本音では入る必要がないからだった。森の際でもたっぷりと木の実は採れる。
この小さな国に、王様が一人と王子様が二人いた。女王様は少し前に亡くなられた。
王様と王子様たちはそろって優れた錬金術師だった。卑金属を黄金にできるとさえ言われていた。
けれども、王様も王子様たちも、国を治めるので精一杯で黄金の錬成なんてバカらしいことはやってる暇はない、と言いきっていた。
バカらしいかどうかは置いといても、王様方が忙しく国を運営していたことは確かだ。自分の国にかかりきりになっていて、他国を攻め取ろうとかそう言ったそぶりは全くなかったことは保証する。

だから、王様が隣国で捕らえられてその場で処刑されたなんて言うのは、王国にとっては寝耳に水の言いがかりのでっち上げだった。

「…悪い、もう一度言ってくれるか?」
「だから!国王陛下がとっ捕まって処刑されたんすよ!オステンベルクからはこのリーゼンブルク討伐の兵が出されました!未明には到達するでしょう!」
早馬を飛ばして知らせを届けたハボックに、兄王子と弟王子は顔を見合わせた。
「何だそりゃ」
「えーと…お疲れ様ですハボックさん」
「嘘じゃないっすよ!俺だけでも先に行って知らせろって何とか抜け出して来たんすよ?!」
「あ、いや疑ってる訳じゃない。…でもな、あの親父がそんなあっさり捕まってあっさり殺されるような奴だと思うか?」
エドワードが己の親を評するにしては辛辣な口調で言った。
「それに、本当に殺されてしまっていたらハボックさん一人で帰したりしないと思うんですよね」
アルフォンスも思案気な表情で言った。
「…え?」
「そうだな、ロイもリザも一緒に一目散に戻ってくるな。きっと」
しばらく呆然としていたハボックもやがて色々なことに思い当たったようだった。
「あ…んの陰険上司…っ!」
「それには賛成だが、それでもジャンを先に帰したってことは派兵は本当でそれに備えなきゃならないってことだよな」
「特にメッセージがないのはやるべきことをやれってことだよね」
兄王子はにやりと笑った。
「それと、好きなようにやれってことでもあるな」
全てを任せたことを王や重臣が後悔しそうな表情だった。だがこの場にいた弟王子は肩をすくめるに止める。
「じゃあお疲れの所申し訳ないんですけどハボックさん、兵隊さんたちを集めて下さい」
「防備を固めるんすね、」
「いいえ」
さっそくきびすを返して行こうとするハボックは王子たちの言葉に足を止めた。
「逃げます」
そしてそのまま立ち尽くした。
そんなハボックをよそに兄王子はブレダとファルマンに指示を出す。街の住民を一人残らず広場に集めるように言って自分もまたそちらへ向かおうとした。
「いやちょっと待って下さい」
その上着の裾をはっしとつかむ。何だよ、と振り返って背の高い臣下を見上げる。
「逃げるって何ですか」
「逃げるってトンズラ」
「王子、そんな言葉ばっか覚えて。いやそう言うことじゃなくてですね、守りを固めるとかはしないんすか?」
「籠城してどうすんだ。収穫期前で備蓄もそんなに多くないんだぞ」
「それに、籠城って言うのはどこかから助けが来ることが前提ですよね。来ると思いますか?」
「それは」
ハボックは言葉に詰まる。
いっそさばさばとエドワードが後を続けた。
「あの小心者のオステンベルクの城主が進んでうちに攻め入るなんて考えづらい。考えられるのはツェントゥーラの後ろ盾だかお墨付きだかをもらったって所だ。とすると、ご近所がうちを助けてくれるなんてことは、まずないだろうな」
「それどころかオステンベルクに便乗くらいはあるかもね」
アルフォンスのだめ押しもありハボックは現実に打ちのめされる。
「それになあ、オステンベルクの兵の主力は重装歩兵だろ。うちの軽騎兵で何とかなると思うか?」
「勝てる要素は機動力だけなのに籠城してもねえ」
「…王子様たちはいやに冷静っすね…」
兄王子はどこかばつが悪そうに鼻の頭を掻いた。
「散々シミュレートはしてきたからな」
「………はい?」
「父さんは折に触れ攻め込まれたらどうするって聞いてきてて」
「軍備を固めて備えるとか言えばそんな金はどこにある、とか言われるし」
「色々あーでもないこーでもない言ってて、結局一番現実的な案は『逃げる』ことだったんです」
父王も、「まあそんなところだろう」と納得を見せた。
だから、いよいよその案を実行に移す時が来た、ただそれだけだといまだ15才に過ぎないエドワードが達観さえ漂わせて言った。
「…やっぱうちの王様普段からやることが違うな」
天を仰ぎ胸に帽子を当てて呟く。感心しているのか呆れているのかその言葉からも表情からも読み取れなかった。
「逃げるための隠し通路はもう用意してあります。それを使って皆には逃げてもらいます」
いつの間に、と呟く声にはもう力がない。
最悪の事態を想定して備えつつ、国民に無用の不安を抱かせないためだ、と当然のような口調で言う。
実際に使う日が来ないのが一番よかったんだけど、との本音は口にしない。
「皆って、皆?」
「ああ。猫の子一匹残さず、皆だ。」
そうして静かに物騒な笑みを浮かべる。
「誰も居ない空っぽの国を奴らにくれてやろう」
「素直に一人の死人も怪我人も出したくないって言えばいいのに」
「うるせえ。良いからお前はさっさと兵に指示を出せ。オレは街の連中に説明をしてくる」
言いながらもう身を翻して行こうとする兄を今度はアルフォンスが捕まえる。
「兄さん、そっちはボクが行くよ。兵の指揮は兄さんが執って」
「でもな」
「適材適所って知ってる?」
ぐ、とエドワードが言葉に詰まる。確かに弟の方が物腰が柔らかい。
渋々申し出に従い兵士の詰め所に向かう。
それを見届けてアルフォンスは城の外へと出て行った。
「…収穫前の畑を放棄しなきゃいけないってことを納得させるのは難しいとはボクも思うけどね」
難しいことを何も言わずにあえて選択しようとする兄には困ったものだ。
独り言を聞いたのは石造りの壁ばかりだった。

街の者達を説き伏せるのにそんなに時間はかからなかった。
王子の「確かにこの収穫を迎えることが出来ないのは辛いけど、死んじゃったら収穫どころか鍬も持てませんよ」という心からの言葉がちゃんと届いた結果だった。
民は手早く身のまわりの者をまとめ、兵や役人の指示に従って隠し通路を抜けていく。
隠し通路は城壁の外まで延びていて、その出口は森の中に通じている。
兵に守られながら森の中を抜けてハルツ山のふもとの集落まで逃れる、と言うのが王子たちの計画だった。
森も山も恐れる他国の者には知られていないことだが、ハルツ山のふもとには鉱夫たちの住む小さな集落がある。魔女も怪物も住まないが、鉱脈を読むのに長けた熟練の鉱夫たちとそこから産出される鉱石で機械鎧を作り上げる技師たちがひっそりと暮らしている。彼らもまたこの国の住人だった。
最後の住人を隠し通路に押し込んで、自分たちも逃げようという段になってエドワードは首を振った。
「一応、街に誰も残ってないか確かめてくる」
念には念をと言うこともあるからな、と言って笑う。そんな兄の責任感を覆すことは不可能に近い。それを知っている弟はそれでも不安げな表情は隠さずに、「一回りしたらすぐに逃げてよ」と言った。
「ああ、すぐに追いつく。…だから、先に行ってろ」
ぽん、と弟の肩を叩いて言った。

エドワードは城の中庭を突っ切って正面玄関から出た。裏手から広場へ出るのにそれが最短距離だった。
その途中で用具室に立ち寄ってブリキのバケツやらモップやらを持てるだけ抱えて広場の噴水の前に置くと、人影のない街の家々を回ってやはりバケツや金ダライを失敬していった。
そこそこの量が集まったがエドワードは納得できなかったらしく、いらいらと足下のタライを蹴った。
「…仕方がない、か。」
ぱっと目に入る部分だけでよしとするか、とどうにか自分をなだめてパン、と両手を合わせた。
自らの中の錬成陣を発動させて大地へとその力を送れば、ぴかぴか光る鎧を付けた土人形が続々と立ち上がる。
よく見れば鎧の元はブリキのバケツを薄く延ばしただけで強度も何もあったものじゃないし後ろの方に行くに従って土人形そのものの造形もお粗末になっていくが、材料そのものが少ないのだから仕方がない。門から入ってすぐに軍勢が待ちかまえているのだと、一瞬でもだませればいいのだ。
父や弟との問答で、エドワードは自分の考えを全て晒した訳ではなかった。
黙っていたがずっと考えていた計画を一人で黙々と遂行していく。
ぴたりと閉じた城門の両袖には、普段であれば門衛の詰めている詰め所がある。今は無人の詰め所に入り、中にある梯子をするすると上る。
すると城と街を取り囲む城壁の上に出る。物見櫓をかねた堡砦から、隣国の方向を見やる。
ハボックの報告通りに、未明には兵は到達しそうだった。見晴らしのよい農地の間を、声もなく迫る軍勢の影をエドワードはみとめた。
黒く不気味な塊が、じわじわと迫ってくる。その数は多くはないが、少なくもない。
彼らが何のつもりで攻め入るのか理解はしているつもりだった。
だが、彼らの考えるような地から穀物のあふれる国はここにはないのだ。彼らが踏みしだくその穀物は、民が額に汗して大地を耕し丹精して育てたものだ。
魔法でも何でもなく、耕す者の努力の成果があるだけだ。
何か彼らの知らない古代の叡智が城に隠されていて、超自然的な力で無尽蔵の富を蓄えている、そんな幻想を抱いているらしいことを知っている。
だが城の書物庫に代々伝わるのはただの古びた年代記だったし、王と王子の使う錬金術はそもそも魔法でも何でもない。
錬金術は経験と観察からなる科学に過ぎないのだが理解しない者から見れば不思議な魔術にしか見えないらしい。
「そんなもののために城ひとつ落とすか。…バカな話だ」
やりきれない気持ちを首ひとつ振ることで振り払い、エドワードは城壁の上に仕掛けをほどこす。
仕掛けを完成させて、改めて自分の生まれ育った城と街を見渡した。
「…ごめんなさい」
エドワードは母に謝った。
元来、この国は母である女王の国だった。女王が流浪の錬金術師であった父と結婚し、生まれたのがエドワードとアルフォンスの二人だった。
母が病に倒れ、まだ幼かった王子の代わりに父が王位に就いた。それもまた彼らの口実に使われた。
彼らは父を簒奪者と呼ぶが、父は好きで王位を襲った訳ではないのだ。放浪癖のある父は隙あらば国を抜け出してしまうおそれがあるくらいで、だから今回も会議にかこつけて逃げ出さないように腹心であるロイとリザにハボックまで付けて送り出したのだった。それがこういう方向に転がるとは思っても見なかった。
「ごめんなさい。母さんの国を渡してしまう」
国を形作るのは城であり国土かもしれないが、最も重要なのは国民だ、とは父にも母にも教えられていた。
今最も重要な国民を守るためとは言え、愛着のある城を無人で明け渡すのは辛かった。
エドワードは目をつむりもう一度小さくごめんなさい、と謝った。
それを最後に顔を上げ、計画の総仕上げに移った。

オステンベルクの軍はリーゼンブルクの城門を押し開けると、一斉に街へと流れ込んだ。
まだ子供だが不可思議な技を使う兄弟王子の不意をつくため、寝静まる街を一気に制圧してしまおうという魂胆だった。
だが兵が城門をくぐったところで、突如頭上から矢が降り注いだ。装甲の厚い歩兵には致命傷を負わせることはなかったが、無防備だと思っていた相手に裏をかかれて兵たちは浮き足立つ。
その上暗い夜闇を焦がすような炬火が煌々と灯り、眼前には甲と穂先をきらめかせた軍勢が姿を現したのだから完全に兵は動揺した。
その動揺を突いて槍を携え甲冑に身を固めた騎兵がたった一騎でオステンベルクの兵の間に躍り込んだ。
ぐん、と槍を振り兵を薙ぐ。倒れた兵をひづめで蹴散らす。
それでも重装歩兵に致命傷を与えることはない。エドワードもそれは承知だった。
この軍を一人で撃退したい訳ではない。ただ時間を稼げればいいのだ。
無防備な無人の城内をくまなく探索されれば程なく隠し通路は見付かるだろう。それまでに皆が森の奥まで入っていればよいが、手荷物を持ち兵に守られた、しかも大人数が移動するには時間がかかる。
よく訓練された軍隊はやがて統率を取り戻す。向かってくるのがエドワード一人であることに気付いて攻撃をそこに集中する。
エドワードは司令官を捜した。統率者をつぶせば軍は乱れ今後の探索にも影響する。
当然ながら司令官は簡単に攻撃の届く場所にはいない。剣戟をかいくぐり軍の中心へと馬を突進させる。
(…いた!)
指揮権を表す標を帯びた兵をようやく視界に入れる。
しかしその一瞬の隙をつかれたのか、右腕に重い衝撃を受ける。
広刃の剣が鎧ごと右腕を叩き斬る。槍が腕ごと地に落ちた。
「…ちっ!」
腹立ち紛れに剣を持つ兵士を蹴り倒し更に馬を進める。だが指揮官そばの兵は精鋭と見えなかなか近づけない。
葦毛の馬の首に剣が刺さるのを目にし、もはやこれまでかと腹をくくる。
(時間は稼げた、か?)
馬が倒れるより先に鞍上から飛び降りて腰に帯びる剣を抜き放つ。
もう少しあがいてやるかと兜のうちでひっそりと笑う。
片腕ではバランスが取りづらいが動けぬほどではない。しゃくには障るが小柄な点を有利として兵の間を抜けていく。
敵の剣がエドワードの兜をはね飛ばし、手甲を歪ませたがエドワードの足は止められなかった。
それでも圧倒的な数の力に押されてついに剣を手放した。
(本格的にこれまで、か)
指揮官はもう目前に見えている。後少しだが手元に武器はない。右腕を失ってしまっているので錬金術も使えない。
エドワードは苛立たしげに兜の金具に手をかけて、兜を脱いだ。
これでもぶつけてやればそれなりに痛かろうと振りかぶったところで、その身がふわりと宙に浮いた。
「…え?」
「重い!」
気付くとエドワードは再び鞍上にあった。ただし今度の馬は葦毛ではなく白馬で、手綱を握るのは弟だった。
「アル?!」
「全く一体何やってるんだよ!」
「何って」
「その兜、投げなくて良いの?!」
答えを待たずに兄から兜を取り上げると、肩越しに放り投げた。兜は見事な放物線を描いて指揮官の首に直撃した。
「その鎧も脱いでよね!ただでさえ二人乗りで重いんだから!」
「って言われてもオレ片腕ないから自分で脱ぐの無理…」
「じゃあボクが壊すから兄さん手綱持って!」
「え?あ、うん」
馬の速度を上げて兄に手綱を渡し、ぱん、と両手を合わせる。錬金術で鎧の継ぎ目を壊すと器用に兄の体から外してぽいぽいと後ろに投げた。
それらは追いすがる兵士たちに気持ちがよいくらい当たった。
軽くなった馬はますますスピードを上げる。
「本当に、何でこんな時ばっかり甲冑なんか着てるんだか。訓練のとき重いとか暑いとか言ってなかなか着ようとしなかった癖に」
「いや…見た目子供じゃ舐められるかと思って」
「それでサイズの合ってない大きな鎧着てたの?バッカじゃないの」
「ばっ…バカとか言うな!ガキが一人で向かってっても相手にされなかったら何の意味もねえじゃねえか!」
「囮になる意図だったんなら、王子は髪晒して顔晒した方がよっぽど目立つと思いますがね…と。アルフォンス王子、大体引き離せたようっすよ」
護衛に付いてきていたハボックが追いついた。
軽く振り返って背後を確認し、幾分馬の足をゆるめた。
「自分が囮になって時間稼ぎ。兄さんの考えそうなことだ」
「…分かってるなら、言うなよ。それよりお前どうして」
「しかも重い甲冑付き。サイズも合ってないから動きづらい。兄さんに相手を殺す気は全くない。つまり、自分が死ぬつもりだったね?」
畳みかけるような弟の詰問にエドワードは唇をかむ。
アルフォンスはひどく怒っていた。黙っていても解けそうもない弟の怒りに、仕方がなくエドワードは溜息を吐いた。
「…しょうがないだろ。死ぬ気でかからなきゃ成功しなかったんだから」
「だからって!」
「それにオレが死んでもお前はいるし、親父も多分生きている。…国を導く人間はいるんだから、いいじゃねえか」
「良いわけないだろ?!」
「王ってのは、最終的に責任をとるものだ。その命で国を贖う。オレの命でこの国が贖えるのかは自信がないが、ここでオレの命ひとつで皆が逃げ切れるんなら安いもんだ」
薄く笑ってエドワードは背を軽く弟に寄りかからせた。
「…安くないよ。兄さんは全然分かってないよ。」
「そうかな」
「そうだよ。…ボクは、兄さんの治める国が見たいんだ。きっと黄金色の麦の穂の実る、美しい国になる。兄さんは自分の命と一緒にその可能性も棄てようとしたんだよ」
アルフォンスは兄から手綱を取り返した。
ハボックは兄弟喧嘩を聞くともなしに聞きながら思った。
それならこの兄弟が黄金色の麦そのもののようだ。地に落ちるのはたった一粒の麦でもそれはやがて芽を出し穂を伸ばし豊かに満ちる。
彼にもなく抽象的なイメージは心の裡にしまって、口に出したのは現実的な問題だった。
「それで、とりあえずはお二方とも命を拾った訳ですが、これからどうしますか?」
「それは当初の予定通りハルツ山に向かうしかないだろうな。ただし国境沿いにぐるっと裏手に回っていく、かなりの遠回りになるが」
「兄さんの腕、修復しなきゃならないですし」
アルフォンスが二の腕で切断されたエドワードの右腕を持ち上げた。
「いくら機械鎧とはいえこんなにすっぱり斬られちゃ…他にケガはない?」
「ないない、後はほんのかすり傷だ」
「ウィンリィ、激怒するだろうなぁ」
「うっ、オステンベルクの重装歩兵よりそっちの方がおっかねえ」
「まあ自業自得だね」
本気で怯える兄王子に、弟王子と護衛は笑った。

さて、その後二人の王子はどうなったのか。
リーゼンブルクの人々は国に帰ることができたのか。
それらの話は、お前がもう少し大きくなったら聞かせてあげよう。だから今はおやすみ、よい夢を。

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