あれやこれやがあって、鎧の身体だったアルフォンス・エルリックは、元の生身に戻った。
戻ってみればぴちぴちのかわいい女の子だった。が、しかし。
「兄さんの、バカーっ!」
今日も今日とて、元気に絶叫している。
ここが軍部の、しかも司令部内だと分かっているのだろうか。
監督責任のあるはずの兄は「はいはい分かった分かった」と軽く流して手元の書類から目を離しもしない。
「…鋼の。」
「多感な思春期のオンナノコの愚痴ぐらい許してやれよ、大佐。」
「どこの世界に司令部の中心で愚痴を叫ぶ思春期のオンナノコがいると言うんだ?」
「ほーっ、すると大佐はうちのかわいい妹はオンナノコではないとそうおっしゃいますか」
「問題点はそこじゃない。」
ようやく最後まで目を通し終わったのか、鋼のは顔を上げた。
「大体いつもの事なんだし、そう目くじら立てるなよ。」
「と言うと今回も?」
「そう、玉砕。」
「玉砕って言うなーっ!」
勢いよく妹の蹴りが飛んできたが、紙一重で避ける。
アルフォンス・エルリック嬢は、今日も失恋してきたらしい。
「またなのか?今月入って何人目だ?」
「失礼な!今月入ってからはまだ一人目ですよ!」
「毎月平均2〜3人に振られているけどな。」
憤然とする妹とは対照的に兄は冷静に指摘する。
「で、俺はいつも不思議に思うんだけどなあ。アルはどうして振られるんだ?」
「それは俺も思ってた。だって顔もスタイルも、性格だって悪かないだろ。」
ブレダが素朴な疑問を呈し、ハボックもそれに乗っかる。
横ではフュリーがしきりに頷いている。
皆の疑問にエドワードがさらりと答えた。
「男を見る目がないんだよ。」
「兄さんがそれを言う訳?!」
「今回に関しては特にそうだろうが。」
いきり立つ妹の肩を書類でぽんぽんとなだめるように叩く。
「よりにもよって、このオレを女と間違えて告白かますような男に惚れたお前が悪い。」
「はぁ?!」
一同、言葉を失った。
「…えっと、大将に?」
「それは命知らずな…」
「目の悪い人だったのかな?」
恐る恐る感想を口にする部下たちを見ながら、記憶のうちに閃くものがあった。
「…アルフォンス。もしかしてその相手というのは図書館員の青年ではなかったか?ちょっと気の弱そうな…」
「え?はい、大佐も知ってる人だったんですか?」
「いや、図書館で見かけただけだが…それで読めたぞ、鋼の。」
つまらなそうな無関心さを装いながら、ちらりと視線を寄こす。
「この所服装がユニセックスなものが多くなったり、面倒くさいと言いながら髪も結わずに下ろしている事が多くなっているな?」
「んーそうかもしれないなー」
「…わざとだな?」
「根拠としては弱くないか?」
にやにやと人の悪い笑みを浮かべている。
「不思議に思っていたのだよ、やけに図書館での言動が大人しいというかしおらしいというか」
見ていて不自然だったとは言わない。その点、彼の演技力は卓越していた。
だが普段の破天荒さや粗野な様子はどこに置いてきたのか、とか。
本の所在を尋ねるのに猫の5〜6匹をかぶる必要はあるのか、とか思う所は多々あった。
その上、懸命に目録を探し当てた係員に「ありがとうございます」と儚げに微笑んだのを目の当たりにしてしまった時には思わず目を疑った。
そう言えば鋼のは黙って立ってれば見栄えだけは良かったよな、と言う事実を思い出しながらも、本性知っているだけに気色が悪かった。
不気味と言うよりは、何か企んでそうで気味が悪い。
素直にその感想を述べれば殴りかかられるかと思ったが、ただにやりと笑われただけだったのがまた引っかかっていた。
「兄さん?」
「そのくらいの策にかかるような男に引っかかるなよ、お前も。」
「じゃあやっぱり兄さんのせいじゃないかーっ!!」
妹がそこらにあった金属製のブックエンドをバールのようなものに錬成し兄の後頭部へ振り落としたが、兄は想定内だったのか易々と右腕の機械鎧で受ける。
「エド…お前、そうやって妹に悪い虫が寄らないように画策してたのか…」
「あ、全部じゃないぞ、半分はアルの自爆だから」
「てことは残りの半分は確実に大将が潰して回ってたんじゃないか」
「そうとも言うな」
いっそ爽やかに笑ってエドワードは言い切った。
「まあ、アルと付き合いたければまずオレを倒してからにしてもらうから。」
「最年少国家錬金術師が第一のハードルってきっついな…」
「多分師匠も立ちはだかるだろうなあ」
「師匠も?!無理だよ、素手で熊倒す主婦だよ?それこそ国家錬金術師かホムンクルスくらいじゃないと太刀打ち出来ないじゃないか!」
地団駄を踏んで喚くアルフォンスの手からさりげなくホークアイがバールのようなものを抜き取った。
振り回されると結構危険だ。
「それにしてもその二択だとどっちに転んでも万国人間びっくりショーだな。」
妹の彼氏がそんなんでも良いのかと思ったがどうやらエドワードはそこまで考えていなかったようだ。
「でもなあ、シスコンもほどほどにしておかないとお前さんにだって彼女が出来にくいだろうが。」
したり顔でブレダが言うと、視線の温度を2,3度落としてマスタングを睨んだ。
「何故私を見る?」
「いーや別に?」
拗ねた猫のような顔で答える。
意図的に中性的な格好をしているエドワードに見詰められると、正直居心地が悪い。
「オレがそういう事言われちゃうのは、大佐の所為だなんて事は、なー」
「な!言いがかりは止めたまえ!」
「…大佐。うろたえすぎです。」
ホークアイが呆れたように溜息を吐いた。
「ごめんなさいね、エドワード君。この人がこんなだからいつまでも待たせちゃって。」
「ん、いいよ気にしてない。いつまででも待てるから。」
にっこりと、それまで実の妹さえそうそうは見られないような笑顔でエドワードはホークアイに答えた。
ぽかんとしているアルフォンスや想定を超えて頭が処理落ちしたような同僚たちを見やって、仕方なくハボックが猫の首に鈴を着けに行く。
「えー質問。大将が誰を待ってるんすか?」
大佐の告白とか言う爆弾を落とされた日には甚大な被害がそこら中に及ぶんだろうなあと最悪の事態を想像しながら聞いた。
しかし、事態はあらぬ方向へと転がった。
「大佐が念願成就して中尉がおもりから解放される日を、心の底から待ってるんだけど?」
他に何があるよ、と怪訝そうな表情でエドワードが答えた。
「………何で?」
「それは、私とエドワード君が付き合ってるからですが?」
「はい?!」
「何でアルまで驚いてるんだ?言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ!思いっきり初耳だよ、兄さん!!」
「あーそっか。悪い。んじゃ言っておく、オレホークアイ中尉と結婚を前提にお付き合いしてるから。」
「よろしくね、アルフォンス君」
がっくりと顎を落としているのは上司も同じだった。こちらも初耳だった。
「私も聞いてないぞ!」
「プライベートですから。」
にべもなくホークアイが答えた。
「式には呼ぶよ?一応は上司だし。」
「…いやそうではなくてだな…」
「アルフォンス君、私がお義姉さんになるのはいやかしら?」
「そんな事はありませんけど…」
「良かった。かわいい妹が出来て嬉しいわ。」
柔らかく微笑む中尉を、エドワードも目を細めて見守っている。
「アルフォンス君に悪い虫が付いたら、私も銃の的にさせてもらうわね」
「頼もしいなー良かったな、アル。」

アルフォンス・エルリックに恋人が出来る日はかなり遠い。

(010405万愚節企画/310106再掲)
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