今日は国家錬金術師の資格試験があったらしい。
挨拶がてらに寄ったというアルフォンスエルリックがそう言っていた。当の本人は意気消沈した様子でがっくりとうなだれている。
「何だ、そんなに試験難しかったのか?」
確か今日は筆記試験だけだったはずだがと思いながら水を向ければ、がばっと起き上がって食らい付く。
「難しいとか難しくないとか!そんなレベルじゃありませんでしたよ!」
兄の天才振りに見落とされがちだが、アルフォンス・エルリックの能力も負けず劣らず相当に高い。
その彼(今現在見た目は彼女)がそこまで言うのだから今年の試験は超難関だったのだなあとまるきり他人事のようにハボックは考えていた。実際他人事だが。
「問題はシンプルで答えもすぐに見当が付いて、その答えに行き着くまでの論理構築も大体分かるのにいざ解答を作ろうとすると途端に迷うんです。」
「えーと?ちょっとよく分からないんだが…」
「たとえるなら、車の模型を作りなさいと言われて部品もひとそろい与えられてて、説明書も付いているのに組み立てていこうとするといつの間にか全く別のものが出来上がっちゃってるみたいな感じで」
「…すまん、それでも分かりにくいわ」
「一見簡単そうに見えて実はものすごい難問だったんですよ、要は」
アルフォンスもあっさりと説明を諦める。
深々と溜息を吐いてなおも愚痴をこぼす。
「そんな問題だったからついついこう何というか攻略意欲というか征服欲というかがむくむく湧いて来ちゃって一問目なのに夢中になっちゃって。その最初の問題すら満足に解答できずに時間切れでした。」
「うわーそりゃご愁傷様ー」
学生時代の試験を思い出して心の底からの慰めの言葉をかける。
分かるわその気持ち、などと頷いていると、同僚からの訂正が入る。
「お前の場合は一問目からつまずいて最後までつまずきっぱなしで一問も解けなかっただけだろうが。」
「一問目が難問でそこで時間食ってたら最終問題がサービス問題だったのにそこまで行き着かなかったことがあるんだよ」
「何にせよ自慢にもならないし大体次元が違うだろうが」
「そう言うブレダ君はケアレスミスの帝王でしたー」
「ばらすな!」
「しかもスペルミスの皇帝も兼ねてたんだぜ」
二冠王だぞ、格好良いだろ、と言ってやればようやく笑った。
中身はどうあれ見た目は申し分なく可愛い女の子がしおれていると、それだけで空気が暗くなる。
「まあ今年は出題者の根性が悪かったんだと思って諦めろ。」
「根性というか…問題から出題者の性格読むんなら、一言で言ってツンデレ系マゾですね」
すぱっとアルフォンスは言い切った。
「ツンデレってどこで覚えたそんな言葉」
「あー…それはともかくマゾか?そんな難問作る奴が?」
「下手すれば一気に解けてしまいそうなぎりぎりのバランスで問題作ってるんですよ。素っ気ない感じで『解けるもんならといてみろ』と言わんばかりなんですが、ぽつぽつと解答への餌がまかれている辺り、『解けるよね?』とこっそり窺ってるような感じも見えて」
「…ぎりぎり感と誘う感じがマゾっぽいと言いたい訳か」
説明されて、何となく納得した。
「と言うことは」
そこでようやく仕事に一区切り着いたらしいマスタングが口を挟んだ。
「鋼のはツンデレ系でマゾなのか」
「は?」
「今年の問題作成者は鋼の錬金術師、エドワード・エルリックだ。つまり君の兄だ。」
ただいま外見は姉だが。少尉二人はかくんと顎を落とした。
「何でですか?!なんで兄さんがそんなこと?」
「現役国家錬金術師が問題作成していててもなんの不思議もないと思うが。」
「だって聞いてませんよそんなこと!」
「当然だろう、君は受験者なのだから」
しれっと言う上司は完全におもしろがっている。ホークアイが軽くこめかみを押さえていた。
「それで兄さんはボクが資格試験を受けると言っても止めなかったのか…!」
受験当日になっても何の妨害工作もなかったので拍子抜けまでしていたというのに。
「それで、今日は大将はどうした?」
「機械鎧の調整でラッシュバレーまで行ってます。」
「まだ女の子のままか?」
「はい、相変わらず美人です」
「…まあ見た目は美人であると認めるにはやぶさかではないが…」
一同揃ってちょっと遠い目になる。
「え、どうしてですか?見た目はあの通りの金髪美少女で中身はツンデレ系マゾ入った可愛い性格ですよ?」
「お前さんの色ぼけ眼鏡もどうにかした方が良いと思うぞ」
「と言うか認めるのか自分の兄がツンデレ系マゾだって事を」
「そりゃツンの時の拒絶っぷりも可愛いですし意地でも落としてやろうという気になりますし」
「…デレの時があるのか?あの鋼のに?」
マスタングの素朴な疑問にアルフォンスは婉然と笑う。
「ありますよ、もちろん」
「………想像付くような付かないような」
むしろ想像するのが怖いような、とまでは言わない。
「そりゃもう今の自分に突っ込むものがないのがものすごく惜しいと思ってしまうような絶品で!」
「突っ込むって何を?!どこに!」
拳握り締めて力説するアルフォンスに思わずハボックが問い質してしまったその時。
ハボックとアルフォンスの丁度真ん真ん中を、銃弾が飛んだ。
恐る恐るハボックは銃弾のめり込んだ壁を確認し、アルフォンスは銃を構えたままの中尉を見た。
「真っ昼間の話題としては不適切よ?」
にこりともせずにホークアイは警告をした。
アルフォンスも素直に「すみませんでした」と謝る。確かに昼間から女性もいるところで口にすることではなかったなあと反省する。
「…で、ボクとしては一刻も早く男に戻りたかったのですよ」
まだどこか一本調子に言った。
「けど資格試験は駄目そうですし」
「まずはあの兄を乗り越えるところからではないかな」
「そうですね、頑張ります」
意気も新たにする少年(見た目少女)に、大人たちは応援していいものかどうか悩んだ。

(180905拍手お礼/201105)
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