「今日オレはほんのちょっとだけあんたを見直した」
溜息混じりに鋼の錬金術師がよく聞くと結構失礼なことを呟いた。マスタングは軽く眉を上げた。
「ほんのちょっととはまた奥ゆかしいことだな。…と言うか見直す余地があったか、私に」
「その自信は一体どこから来んの。」
見直したはずの天秤がまた元の方へと傾いた、そんな様子がじろりと見下す視線にありありと表れている。低い視線から見下せるのは器用なものだとそこだけは感心する。が、理由もなく見下されるのはいい気分ではない。
「仕事さぼれば後からツケをはらわなきゃならないって分かってるのにいつまで経っても学習しないところとか、それで爪隠すつもりでいるんだろうけど肝心なところでぼろが出るからますます警戒されてどうするんだとか、てかホークアイ大尉に迷惑かけるのはやめろとかしわ寄せをこっちに寄せるのはどういうつもりだとか、そんなオレの中の焔の錬金術師評価を全て覆すほどじゃないけどさ」
控えていたホークアイがいちいち頷いている。エドワードに付き従うロス中尉はと言えば、苦笑を必死でかみ殺しながらもどういう表情をすれば失礼に当たらないか分からない。その手から書類を取り、エドワードはマスタングの机の上に積み上げた。
「後はあんたの決裁待ち。質問があれば今ここで」
「…無茶を言う」
「正直時間がないんだわ。あんたは昨日1日雲隠れするし、今日は今日でどーでもいいような会議で時間取られた上におっさん達のしょーもない嫌味でねちねちねちねち引き留められてさあ」
今度こそはっきりとエドワードは溜息を吐いた。
「あれに延々付き合ってきたって点だけは、あんたを心から尊敬する。大人ってすごいな!」
「今日は何を言われた?」
「オレの部下達のおっさん達的な評価。さすがに上司の評価は吐けなかったみたいだな」
オレとしては聞いてみたかったんだけどな、と笑うがその目は決して笑っていない。
「散々言われていることだろう、個性的だとか癖が強いとか」
「ん?いんや。そんなんならありきたりだしむしろ褒めてんじゃねえのって思うから良いんだけどさあ」
「…良いんですか」
部下であり常識人を自認するロスが乾いたつぶやきを漏らした。ホークアイの同情するような視線がちょっと悲しい。
「部下は顔で選んでるのかって言われてさあ」
「選んでるのか?」
「オレに選ぶ権利が与えられた試しがないだろうが。二重スパイ疑いとか神経症すれすれだとか破壊魔だとか取扱に注意しなきゃならないのを拾ってはオレに回してきやがって」
「半分は君が拾って私に回してきたのを返しただけだ」
「ふーんそうなんだー」
「拾ったものは最後まで面倒を見たまえ」
「いや見るけどさ。あんたも幕僚を顔で選んでると思われてるみたいだぜ。一応教えておくけど」
彼らがはっきりとそう口にしたわけではないが、上がああだと下も傾向が似るんだろうかねえ、と粘つく口調で言われた文脈から判断するとそう言うことになるのだろう。
「…君は顔で選ばれたのか」
「え?なんでオレ?大尉のことだろ、どう考えても」
「………そうか、君に絡んだとか言う男も不憫な気がしてきた」
本気で意味が分かってない様子のエドワードにマスタングは疲れた笑いがこみ上げてくる。黙って立っていれば細身ながら端正な容姿にカリスマ性を感じて付いていく下士官もいるというのに、本人に自覚はない。それどころか兵士の間では軍神まがいの崇敬さえされているのに、情報部の宣伝効果だと信じて疑わない。まあ半分はそうかもしれないが、核となるものもないのにこてこてと厚塗りもできないものだ。
「だが、君の所にも普通の軍人だっているだろう」
「何を持って普通の軍人って言うのかがまず分からねえ」
ロスが小首を傾げた。
「雰囲気で言うなら、リース軍曹とか?」
確かにそうかも、とホークアイは最近エドワードの配下となった若い軍曹の顔を思い浮かべる。直近まで最前線にいて軍功を建てたということだったから、叩き上げなのかもしれない。
だがしかし、エドワードもマスタングも愕然と言った表情だった。
「あれが一番手に余る部下じゃねえか…!」
「君の口から手に余るなどと言う言葉が聞けるとは思わなかった…が、それに関しては全く同感だ」
元大総統を部下に持つ気概はマスタングにはない。自分が大総統になることとそれとはまた全く違うことだと思うのだ。

その手に余る部下が作戦開始までのタイムリミットを告げに来るのは、5分後のことだった。

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