「ラッセルたちはお父さんに錬金術を教わったんだっけね」
何かの拍子でそう言う話題にもつれ込んだ。ラッセルとフレッチャーは頷いた。
「ああ、基礎の基礎からほとんど全部。父さんがいなくなってからは残された本と、それから手紙でも色々と教わった」
「それで親父さんとほとんど同じ錬金術を使うことになったわけか」
エドワードが学生たちの評価を書き付ける手を止め顔を上げた。学生たち本人もいるところでやることか、とリンもアルフォンスも一応は抗議したのだが、当の教師は「別にお前ら興味ないだろ」と取り合わなかった。そう言う問題ではない。
「エドワードさんは誰に教わったんですか?」
フレッチャーが尋ねると、ちょっと首を傾げた。
「教わったって言うか、気付いたら出来てた」
「………なにそれ」
「オレの父親も錬金術師だったんだが、こいつが全然家にいない奴で、留守中に奴の蔵書を読みあさっている内に何となく」
「なんとなく…」
「何となくで身に付くようなことなのカ錬金術っテ」
ひとりを除いて錬金術師たちは皆一様に首を横に振った。
「それ、何歳くらいの話?」
伝説によれば鋼の錬金術師は12才で国家資格を取ったはずだったから少なくともそれ以前の話となる。
もっとも伝説が正しいとは限らない。国家資格を取ったのがもっと後ならばそうおかしな年齢は出てこないだろう。
だがそんなアルフォンスの常識的予測は軽々と打ち砕かれた。
「物心付いた頃だから3才くらいか?そん時にはもう簡単な錬成はやってたから」
「早っ!早すぎ!」
「しかも独学でか!?どういう天才なんだお前!」
トリンガム兄弟はほとんど化け物を見る目でエドワードを見ていた。エンヴィーからすれば今更な事だった。
「父親からは特になにも教わってないのか?と言うかお前の父親って今どうしてるんだ?」
「さあな、死んでなければ生きてるんじゃないか?」
人を食った回答にラッセルは鼻白む。リンとアルフォンスは明後日の方向を見て乾いた笑いを浮かべる。
エドワードの年齢(と体質)を考えれば、とっくの昔に故人だろう。
エンヴィーだけがその言葉の意味を正しく理解し、「確かに死んでなけりゃ生きてるだろうな」と心の底から同意した。
「そう言えばお前はどこで錬金術を覚えたんだ?確かノヴァーリスさんは錬金術師じゃなかったよな?」
エドワードがアルフォンスに尋ねる。
エドワードはアルフォンスの父親とは面識があった。そもそも、繊維に関する企業に勤めるヘンリー・ノヴァーリスが羊毛の仕入れの関係でリゼンブールを訪れたことが始まりだったのだ。何回か足を運ぶうちにリゼンブールの気候が病弱な娘の身体に良いかもしれないと思い、医師のロックベルや薬剤師(と言う風に誤魔化していた)エドワードとも相談し、妻と娘を引っ越させるに到った。
紹介されたトリシャ・ノヴァーリスと対面した時のエドワードの様子は、密かにリゼンブールでは語り種になっている。
それはさておき、アルフォンスの場合はエドワードやラッセルたちと違い父親は錬金術師ではないことははっきりしてる。
「うん、ボクの場合は身内に錬金術師はいなかったけど、父さんの仕事の関係であちこち回っていた時に師匠たちに出会ってね」
「へえ」
「すっかり夢中になっちゃって、半年くらい家族とも離れて内弟子になってたこともあるんだ」
今は錬金術よりも他のことを学ぶ方が大事な時期だからと帰されてしまっている。だが進学が決まったらいったんまた師匠の元に戻って再修行しようと考えている。
「今度こそ、ちゃんと錬金術を教えてもらえると思うしね」
アルフォンスは笑顔で不思議な発言をした。
「………は?」
「…錬金術の師匠の話じゃなかったか?」
「うん、そうなんだけどね、師匠のところではほとんど錬金術の修行ってしてないんだよね」
「じゃあ一体何の修行を?」
「ええと、基礎体力作りと体術と、格闘とか組み手とか?」
指を折って数え語尾を疑問形に上げるアルフォンスに、疑問なのはこっちの方だとラッセルは頭を抱えた。フレッチャーがおずおずと尋ねる。
「錬金術の基礎も教わらなかったんですか?」
「基礎の基礎の基礎くらいなら、組み手の最中に問答を受けたよ。全は一、一は全とか力の循環だとか等価交換だとか」
「…基礎以前だ」
ただエドワードだけが感心したように頷いていた。
「良いんじゃねえの?頭で理論を考えるばっかじゃ頭でっかちになるからな。つーか本来錬金術は頭だけで考えようとしても容量が足りないから身体全部を使って思考しなきゃならないんだが、それをそれこそ身体で覚えるのは間違ってない」
「身体全部を使って思考…ってそんなこと出来るのカ?」
「お前だって気の巡らせ方感じ方は理論だけ教わったって身に付かねえだろ。錬金術的思考もそれと同じ事だ」
「なるほド?」
納得したようなしないような、曖昧な表情でリンは理解した。
「ってことはお前の理論はほぼ独学か?」
「うん、師匠たちはあまり理論に重きを置いてなかったからね」
アルフォンスは苦笑した。
それでも師匠たちは錬金術師らしくそれなりの蔵書も持っていて、「私の資料以外は自由に見ても良いぞ」とそれぞれに言ってくれていた。
…が、しかし。「こっからここまでは私の資料だから触るんじゃないぞ」と言われた残りの蔵書はもう一人の師匠の資料ゾーンで、結局アルフォンスが自由に触れられる資料はほとんどなかった。
そんなわけでアルフォンスは理論と実践に関しては自力で本を探し理論を組み立て実行に移してみるよりほかなかった。
「独学の割に体系はすっきりしていて無駄がないな。多分、その師匠たちの基礎問答がきっちり効いてるんだな」
「トラウマという奴か」
「エンヴィー、多分それ違う。」
エドワードに褒められアルフォンスは気分が良かった。自分だけではなく、師匠たちも褒められているからだろうと思う。
「師匠たち、と言うことは一人じゃないんだ?」
ラッセルが指摘した。
「うん、双子なんだ。あ、写真があるよ、見てみる?」
手帳に挟んである妹や両親の写真の間から探し出してテーブル上に置いた。皆で一斉に覗き込む。
紺碧の空の下、穏やかに笑う黒髪の女性が二人写っている。
「こっちがダフネ・ハーネット師匠、こっちがクロエ・ハーネット師匠。見た目も中身もそっくりだけど、慣れてくると見分けは付くよ」
「美人だナ」
「でも強いよ?二人とも素手で熊も倒したって」
「うそだあ」
「…っておい、顔色悪いぞだいじょうぶか?」
ふと隣で青ざめるエドワードに気付いてラッセルが声をかけた。
血の気の引いた顔で写真を凝視している。
「………恐怖の二乗だ」
呆然と呟く。
エドワードはようやくアルフォンスの腕っぷしの強さの理由が理解できた。
写真の中の人物は、二人が二人とも彼の師匠、イズミ・カーティス(旧姓ハーネット)に瓜二つだった。

(241006拍手お礼/060307)
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