もうすぐ休暇から覚めるセントラルシティの、ソラリスの元にエドワードは来ていた。
「はい。頼まれていた物件」
「悪いな、こんな時ばっかり頼んで」
「良いのよこれくらい」
婉然と微笑んで、ソラリスは紙片と鍵を渡した。
「あなたが、生きてるとも死んでいるともつかない状態でいるよりは、多少のトラブルがあったとしても動いてくれる方がずっと良いもの」
「…どういう意味だ、それは」
じろりと睨むエドワードに、くすくすと少女のように笑う。
「私たちは、あなたの幸せを願うようにできているのよ。ただ、それだけ」
「……。」
「そんな顔しないで。多分それは、あなたが思うほど哀しいことじゃないの」
そんな顔、と言われても自分がどんな顔をしているのかエドワードには分からなかった。
何となく俯いて、出された茶を口にする。
「とにかく、私はあなたが中央に出てくるのに大賛成だと言うこと。プライドはちょっと渋い顔をしてたけど、結局は逆らえないんだから気にすることはないわ」
「でもソラリスには結局世話になりっぱなしだな。家も勤め先も世話してもらって」
「大したことじゃないもの。気にしなくて良いのよ」
こう見えても事業はうまくいっているのだから、自分に余裕があるうちはどんどん頼って欲しいのだと彼女は言う。
その代わり、こちらが助けて欲しい時には助けてもらうんだから、と冗談めかして等価交換を持ち出す。
いつになることやら、と彼女とその娘の敏腕振りを知っているエドワードは苦笑した。
「勤め先の学校だって、つながりのあるところだからかえって助かっているのよ。丁度錬金術の講師を探してたところだって言ってたし」
「オレなんかで良いのかねえ」
「鋼の錬金術師が教えるんだからこれ以上の贅沢はないでしょう」
「…贅沢って言うのか?」
エドワードは眉根を寄せる。
鋼の錬金術師でござい、と名乗って教師業をやる訳にもいかないのだからその価値はなかろうと思う。
けれどもソラリスはエドワードの面倒見の良さを知っていた。だから、教職に就くことについては何の心配もしていなかった。
心配なのはむしろその事件を呼び寄せる体質の方だった。
彼自身がトラブルメーカーとならぬまでも、どういう訳か事件の方が彼を慕い集まる傾向があった。
(しかも、アルフォンス・ノヴァーリスとエンヴィーと、同じ学校だものねえ)
おそらく事件遭遇率は確実に上がる。そのことが吉と出るか、凶と出るか。密かにソラリスは賭けに出ていた。
「家の方はすぐにでも入居可能だから」
「そっか。…………………って、おい」
「学校からも近いし、うちからもそう遠くはないし。何と言っても大家は私だし」
「いやそうじゃなくて」
住所の書かれたメモを見たエドワードの眉間の皺が、より一層深くなった。
「ここ140年ほど誰も住んではいないけど、きちんと定期的にメンテナンスはしてきたから大丈夫よ」
「なんで」
「だって、あなたの住んでいた家だもの。寝に帰るだけだったとは言え、取り壊されたり改修されたりするのは我慢ならなかったのよ」
にこやかにソラリスが言うように、その住所はかつてエドワードが軍人時代に住んでいた家だった。
よくよく見れば、鍵も当時のものだ。道理で見覚えがあるはずだった。
「慣れた家の方があなただって良いでしょう?」
呆然と、鍵を見つめる。
慣れるほど帰っていなかったような気もするが、そう言うことではないのだろう。
「…一人暮らしにゃ、広すぎやしないか」
「そうね、元々軍の士官向けの官舎だったものだものね」
ごねてみせるそぶりを見せたものの、エドワードは別の物件を探す気は全くなかった。
ソラリスの厚意をありがたく受けるつもりでいたが、生来のへそ曲がりが素直に受け入れることを拒んでいる。
ただそれだけだと言うことを、ソラリスの方も十分承知している。
「丁度良いわ、落ち着いたらで構わないから、犬でも猫でも飼うと良いわ」
広いのだから大型犬でも大丈夫なはずよ、と大家は言った。
「…ペット推奨なのか?大家が?」
「あなたの場合、あなたを世話する人間かあなたに世話される人間かどちらかがいないとどこまでも自堕落な生活になるからよ」
前にも言ったことがあったような気がするが、きっぱりと断言する。
「人間飼うのは無理にしても、何か世話する生き物がいた方が良いと思うのよ」
「そう言うもんか?」
「大きな犬なんて良いんじゃないの?あなた確か犬に好かれるタイプだったでしょう」
毎日散歩にも連れて行く必要があるし、規則正しい生活の友にはもってこいだろう。
さっそくペットショップに手を回しかねないソラリスをようやく止める。
「まだ飼うとは決めてないし、第一相性ってもんもあるだろうし。オレが良くても犬にストレスかかったらかわいそうだろ」
「それもそうねえ」
「ペットのことは後にして。…旦那の見舞いに寄って行っても構わないか?」
エドワードは立ち上がり、紙片と鍵を上着のポケットに突っ込んだ。
「ええ。きっと喜ぶわ。ずっと会いたがっていたから」
ソラリスも案内のために先に立った。

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