玄関の呼び鈴に応えてウィンリィは扉を開けた。そして閉めた。
「おいおいお嬢ちゃん!?おーい?」
だんだんだん、と扉を叩く音と男の声が聞こえた。どうやら幻じゃなかったらしい、とウィンリィはもう一度、今度は細く細く扉を開ける。
警戒感もあらわなその様子に、グリードは天を仰いだ。
自業自得とは言え、ここまで招かざる客扱いだとさすがに傷つく。その上くっきりと眉間に皺を寄せているのは健康的な美少女だ。これで傷つかない男はいない。
「…何かご用?」
地を這うような低い声に、更に落ち込みそうになる。
顔だけは情けない表情で、気付かれないようそっと扉の隙間に片足を挟む。
「俺一人だけだからそんなに警戒しなくても」
「用心に越したことはないわ。…で、何の用?」
「エドワードは留守なのか?行ってもいなかったんだが」
「ええ。リゼンブールにはいないわ。じゃあさようなら」
そしてウィンリィは扉を閉めようとした。
「待て待て待て用事は終わってないから!聞きたいことはまだある!」
がっと膝まで挟んで無理矢理扉をこじ開ける。腕は使えないので半身をねじ込むようにして何とか扉を開かせた。
「ばっちゃん、駐在さんに電話!」
「いや、だから!今回は何でもねえって!ちょっと聞きたいことがあるから!用事すませたらすぐ帰るってばよ!!」
「…と言うか、何だいその大荷物」
孫娘のただならぬ様子に思わず出てきた老ロックベルがグリードが腕いっぱいに抱えたものに目を留めて言った。
目立つのは大きな花束と、派手な包み紙と色とりどりのリボンだ。
ケンカのお礼参りにしては場違いな手みやげに気付いて、ようやくウィンリィも首を傾げる。
身体半分でドアストッパーとなっても、それらはつぶさないよう気を遣っている。
「話くらいは聞こうじゃないか。入んな。」
まあ大丈夫だろう、と言うことで老ロックベルは孫娘に合図をしてグリードを招き入れた。

「リゼンブールに行くから、花束用意してくれや」
ああ、行くのは俺一人だからな、と付け加えると部下達は得心げに頷いた。
「お詫びの品なら花束よりもっと女の子が喜びそうなものが良いんじゃないすかね」
「あ?」
「そうだよなあ、確かこの辺にこないだのカードの戦利品のペンダントが」
「むき出して持ってくのか?箱くらい用意しろよ」
「あ、いやあのな」
男達は大騒ぎしながら当たりを探り、どうやら適当な空き箱を見つけ滑稽なほど丁寧な手つきで安っぽいペンダントを収めた。
「あーでもこれだけじゃ寂しいよなあ。他にも何かないか?」
「服とかアクセサリーとか…だよなあ、やっぱ」
「ハンケチとかも良いかもしれないぞ、丁度ドルチェットが昨日振られた女の所に持ってくつもりだったらしいのがここに」
「あ!てめえどうしてそれを!」
「丁度良いな、リボンもかかってるし」
「役に立つんだから良いじゃねえか」
「いやまあそれはそうだけどよお…まあ、いいか」
「香水だとかはどうでしょうね」
「…さすがにまだ早すぎないか?ずいぶんちっちゃい子だったろ」
「んじゃコロンとか。その辺はどうなんだ?マーテル」
「あんなに小さい女の子なら香水だのよりポプリの方が良いんじゃないか?」
よし、それだ!誰か雑貨屋行ってこい!と女性の意見が尊重されてすぐさま使いっ走りが出されようとした。
テーブルの上に積まれた見舞いの品と言うよりは貢ぎ物を呆れた目で見やり、マーテルは走り出ようとした下っ端の襟首を掴んで引き留めた。
「全然足りないよ。雑貨屋行ったら何かきれいな包み紙と、リボン、それからもっと子供の好きそうな菓子だのも一緒に買っておいで」
ぽん、と男達は手を叩く。
そして俺からもと財布から小銭を出して使いっ走りに握らせる。一人ではなく、その場にいたほとんどだ。
酒と煙草以外のものに普段自分から金を出すことなど陽が西から昇ってもありえない男達だったにもかかわらずである。
そんな手下どもの様子を見て、グリードは頭を掻いた。

「…とまあ、そんな訳でな」
出された茶をずずっとすする。
「アルフォンス・ノヴァーリスの妹さんに一言詫びを入れないといけないと思ってな」
「…で、これがお詫びの品?」
胡乱げにウィンリィは品々を見た。
「病気だったとは知らなかったもんだからさあ。それなのに怖い思いもさせちまったからな」
「…実はいい人?」
言いながらも胡散臭いものを見る目のままのウィンリィにグリードはにやりと歯を見せて笑う。
「そうだぞお嬢ちゃん。人を見た目で判断しちゃいかんぞ」
「本当のいい人は自分で自分をいい人だとは言わないよ」
「それもそうだ」
あっはっは、と豪快に笑う。老ロックベルは溜息を吐いた。
「悪いがね、完全には信用できない。だからあの子の家も教えてはやれないよ」
「…まあ、そうだろうな」
「今あの家にはあの子とあの子の母親しかいないんだよ。アルはもう中央に帰っちまってるしね。そこにあんたみたいなのが行ったら大変なのは分かるだろ」
だからね、と老ロックベルは妥協案を提示する。
「駅の前の広場にトリシャさんとリィに行くように連絡をするからそこで会いな」
そこならば駅員さんや村の人々の目もある。
「あ、でもちょっとその前に寄りたいところがあるんだが」
さっそく受話器を取った老ロックベルを止めた。
積み上げた土産物の中から花束だけを取り上げて、軽く笑う。
「エドワードに聞こうと思ったんだが、奴は留守だったからさ。知ってたら教えてくれないか?」
何を、と問うウィンリィと老ロックベルに、グリードは不可思議な表情で言った。
「アルフォンス・エルリックの墓。…まあ、一応知り合いなんであいさつくらいはしておかないと」
こないだ来た時はそれどころじゃなかったからな、と言う。
弔花とは思えぬ鮮やかな色彩の南国の花が揺れた。

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