「さて。これで全部か?」
鞄の中身を確認して、エドワードは首を傾げる。
旅には慣れているせいか、荷物は少ない。さほど大きくはない旅行鞄に詰めるものは詰めたのに、若干の余裕があった。
本当にこれだけだったっけかな、と思わず指さし確認を始めた。
「ばっちゃんには刻み煙草。たっかいやつ。」
少しはこれで量を減らしていきゃあいいんだ。群青色の缶は良い按配に収まっている。
「トニーにはチョコレート。」
多分食べ物なら何でも喜ぶ。でもきっと、子供ならお菓子の方が良いだろう。そう思って購入した。
普通の板チョコよりもずっと大きい。菓子店が冗談で作ったものを譲り受けた。
「…アルには…あー…何も用意してなかったな」
考えなかった訳ではない。だが、情けないことに自分の弟が喜ぶものが思いつかなかったのだ。
「本…は読むけど。オレの本は先に送ってあるし。」
と言うか、事前に送った荷物の8割が本だった。
家財道具も元々少なかったのでそう言うことになってしまっている。
「食い物は今時リゼンブールの方が豊富だろうしなあ」
嗜好品なら別だが、弟はそう言ったものをあまりたしなまない。
「あとは…猫とか?」
言ってからそれは土産じゃないだろう、と首を振る。
すると、どういうタイミングなのか足下に猫がすり寄ってきた。
「…お前か。」
彼女は通いの猫だった。このご近所に数件、餌をもらう家を確保している野良猫で、エドワードの家もその内の1件だった。
エドワードは滅多に家には帰れなかったが、どういう勘働きをするのかエドワードが帰宅する時には必ず家の軒下にいた。
よそからも餌をもらっていると言うことは、毛並みの良さからも分かる。エドワードの帰りを待つだけだったならば、とっくの昔に餓死寸前だっただろう。
「今度からうちは巡回ルートから外せよ?オレはここ引き払うんだから」
グレイ地にうっすらと虎縞模様の浮いた猫はエドワードを見上げ、にゃーんと鳴いた。
「…分かってねえな?」
しゃがみ込んで、猫と視線を合わせる。
「あのな。オレは田舎に帰るんだ。この家ももう誰も居なくなるから、もうここ来ても餌はやれないから。分かったか?」
猫は、可愛らしく首を傾げた。
「ああもう。…あー…お前、飼い主は…いないか。」
首輪も着けず好き勝手に闊歩するのをよく見かけている。
破談覚悟で、エドワードはおそるおそる猫に提案した。
「うち、来るか?ど田舎だけど」
アイスブルーの目がじっとエドワードを見ている。
その目がすっと逸らされる。やっぱダメか、と思ってみていると、猫はとことこと歩いて鞄の隙間にくるりと丸くなって座った。
にゃーんと鳴いて、エドワードを見た。
「えっと…?いいのか?こっから遠いぞ?何もない田舎だぞ?本当にいいのか?」
思わず周章狼狽して尋ねるエドワードに、猫はにゃーんと鳴いた。
辺りを見回し、溜息をひとつ吐いて覚悟を決める。
猫の首筋を掴んで抱き上げて、鞄を閉める。
「それじゃ、出発を繰り上げないとな。」
猫を片手に抱いたまま、反対側の手に鞄を持って家を出る。
「お前を入れる篭を買ってからじゃないと、列車に乗れないからな」
猫はにゃーんと鳴いた。

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