リン・ヤオは今現在のアメストリス国家錬金術師制度しか知らなかった。
「だから『人間兵器』とか言われてもピンと来ないナ」
「…まあね」
アルフォンスも苦笑する。
「と言うかあの国家錬金術師選抜大会を知ってるのか?お前」
「去年の決勝だけ見タ」
「すごかったよねー決勝に残った二人とも実力伯仲してて」
「………と言うか年々エンターテインメント性が加速してるよな、あれ」
エドワードが遠い目になった。
「エドも出たら今の制度でもなれるんじゃないの、国家錬金術師」
「なれる。と言うかなった」
「え?!」
「あのな。新制国家錬金術師選抜大会第1回優勝者はオレだ」
「何そのトリビア!と言うよりむしろ超歴史」
その実在さえ疑われる伝説の鋼の錬金術師が第1回の栄えある優勝者だなんていかにも出来過ぎている。
胸を張るでもなくエドワードは淡々と言う。
「事情があったんだよ、これでも」

軍事独裁体制から共和制へと移行しようやく落ち着きを見せ始めた頃、国家錬金術師制度についても見直しが計られた。
まず錬金術の軍事利用という点をなくし、引き換えにその特権を大きく削減した。
査定は設けず、その称号は終身、但し一代限りで世襲はない。
与えられるのは莫大な賞金が1回のみと名誉と崇敬。
その選定は多くの民衆にも分かり易く知らしめ、年1回たった一人のみがその栄誉に与る。
選考大会の大枠が決まったと言うことだけは知っていたエドワードの元にも、何故か「選考大会出場受付済み」の通知が来た。
「…何でオレがエントリーされてるんだ?」
「ああそれはですねえ、錬金術師局からの依頼なんですぅ」
おっとりとした部下の返答があった。
「旧制度の国家錬金術師にも出てもらいたいって、出来れば軍務についていてぇ、有名どころでぇ、見栄えの良いところを何人か見繕ってくれって言われてぇ」
「………は?」
「軍の上の方からもぉ、一応けじめみたいなもの?旧体制下で軍が無駄金使ってたんじゃないかって疑惑をぉ晴らしたいかなって言う?」
今更この部下の口調には文句をつける気も起きなかったが、その内容には一言もの申したくなった。
「それで何でオレだ?もうちょい暇な体力バカもいるだろうが」
「ネームバリューと見栄えであちらにはねられました」
別の部下も言い添えた。
「あとうちの事情としましては大会に便乗してテロリストのあぶり出し作戦展開していこうと思ったんで」
「そうだな、その懸念は濃厚だったっけ」
「一大イベントですからぁ、残存勢力の人達もホイホイ出てくると思うんですよぉ」
と言うかぁ、出てくるように私たちがしかける訳ですけどねぇと有能な部下は笑顔に物騒な成分を滲ませる。
「だからボスには舞台上にいて欲しいんです」
「…その計画はオレは初めて聞いたぞ」
「あ、これ立案書です。ボスの決裁待ち」
「オレにもスケジュールってもんがあるだろうが!ちったぁ考えろ!」
わめくエドワードだったが、立案書にはさらっと目を通しすぐさまサインする。
秘書官も素直に通したところを見ると、スケジュール調整のめども立っているのだろう。…と言うことは聞いてなかったのはエドワードだけだったのだろう。
「ちなみに軍部と錬金術師局のマッチングで焔の錬金術師殿も上がっていたのですがあちらの秘書官に却下されました」
「だろうな」
「こちらとしてもボスの方がトラブル吸引体質と臨機応変さがあるのでぇ、ありがたかったんですぅ」
「そりゃどういう意味だ」
「あははは、まあ準決勝か決勝までは残って下さい」
「錬金術師局としてはぁ、優勝はして欲しくないみたいなんですけどぉ」
心機一転したはずなのに旧制度下の国家錬金術師が再び称号を得るのは面白くないと言うことらしい。
だが作戦の性格上なるべく最後の方まで残る必要はある。
「ま、適当にやってやるさ。」

そして大会予選当日。
広場は参加者で埋め尽くされた。舞台上の司会者が拡声器を通して叫ぶ。
「みんなーっ、国家錬金術師になりたいかーっ?!」
「おーっ!」
「罰ゲームは、怖くないかーっ?!」
「おおーっ!!」
「いーい覚悟だ。ではさっそく第一問!」
じゃじゃん、と言う効果音と共に問題が出され、「正しいと思ったら○の方へ、間違っているなら×の方へ走れ!」と指示が出る。
第一問目からエドワードはその場に脱力した。
「誰だこんな形式考えた奴…っ」
後からそれは錬金術師局に出向中の子飼いの部下であったことを知り、だったらシード権を寄こせとわめくことになる。
とにかくエドワードは指示通りに○×クイズをこなし最後の問題の正解発表には「よっしゃぁ!」と思わずガッツポーズを取ってしまうほどにはまり込んだ。
第一予選でおよそ100名まで絞られた参加者は、中央を出発し、東部から北部、西部、南部とぐるりと国内を巡回し、決勝で再び中央に戻ってくる。
各地で次々とふるい落とされ、失格者には過酷な罰ゲームが課せられその場で各自帰される。
行く先々でエドワードはライバルたちを制して勝ち残り、裏では部下と共にテロリストの勢力つぶしに暗躍した。

「んで、無事決勝まで残って、ついつい夢中になって優勝しちまってさ」
錬金術師局のお偉いさんにねちねちいやみを言われた。
「半ば『なかったことに』したがってたなあれ。」
「…そっか。」
「…昔っからあんなノリだったんダ」
異国人のリンが呆然と呟いた。
「まあ基本的なところはな。」
この国の百年の平穏の理由が見えたような気がした。

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