彼女が再びリゼンブールを訪れたのは、3日後のことだった。
真っ直ぐにロックベル診療所にやってくると、笑顔で用件を述べる。
「私の唯一にして最大の趣味が読書なんですよ」
「…で、野ざらし図書館の本を読みたい、と?」
祖母はそっと孫娘に目配せし、ウィンリィは静かに家を出た。
「そうなんですよ!個人の蔵書であんなに充実したのを見るのは本当に久し振りで!まだ見たことのないタイトルもいっぱい並んでいてもう気になって気になって!」
興奮気味に言うシェスカは、孫娘が出て行ったことにも気付かずに続ける。
「前回は仕事中でしたし、報告しなきゃ行けないこともあって諦めたんですけど。今日はきっちり休暇ももぎ取って来ました」
「と言うと、今回は役所の仕事は関係ないのかい?」
「はい、完全にプライベートです」
ちらりと窓の外を見て、老ロックベルは答えた。
「…まあ良いんじゃないかね。」
「!本当ですか?ありがとうございます!」
「今日は子供たちが集まって本を読んでいるようだからうるさくするかもしれないが、良いかね?」
「全然構いません!」
何度も何度もシェスカは頭を下げた。村人たちの渋る様子から、よその人間には開放されていないのかと思っていただけに、その喜びは大きかった。
弾む足取りで「フェア・ネッドの書棚」に向かう彼女を見送り、老ウィンリィ・ロックベルは小さく溜息を吐いた。

「え?役所の人また来たのか?」
駆け込んできたウィンリィから来訪を告げられて、エドワードは軽く驚いた。
たまたま来ていたアルフォンスとリンも顔を見合わせる。
その足下でてんで勝手に図鑑を開いて見ていた村の子供たちも興味深そうに様子を窺う。
「しょうがねえなあ、…ほら、お前ら。野ざらし図書館になるから外に出な」
「えーっ」
「読んでた本は持って出て良いから。アル、リン、お前らも一旦外に出てくれ」
「うん、はい一緒に外に出ようねー」
何故か懐かれた子供を本ごと小脇に抱えてアルフォンスは外に出る。続いてリンや他の子供たちもぞろぞろと付いて出る。
エドワードとウィンリィが残る子供がいないか確認して出ると、建物から離れるように指示してエドワードはパン、と手を合わせる。
錬成反応の光が走り、あっと言う間に家は廃墟となる。
ただ本棚だけが林立し、野ざらし図書館が出来上がる。
「さ、本読んで良いぞー」
「はーい」
「何故か子供は野ざらし図書館の方が好きなのよね」
嬉々として棚に走る子供たちを見てウィンリィが肩をすくめる。
「ウィンリィもそうだったんじゃないカ?」
茶化すようにリンが言えば、はにかんだ笑みがそれを肯定する。
「今日は天気も良いからな。…と、ああ来た来た。」
何やら大荷物を背負ったシェスカがひょっこりと姿を見せる。
「あら?えーとこないだの学生さん」
「こんにちは」
「今日はどうしたんですカ?」
「ここの本を読ませてもらおうと思って休暇を取って来ちゃいました」
照れたように笑って言う。エドワードが首を傾げた。
「こんな所までわざわざ?」
「私、本を読むのが大好きなんです」
それはもう本棚の方に気が惹かれてしまってそわそわしている様子からも分かる。
「あー…まあガキどもいるけど、ゆっくりしていくといい」
「はい!」
屈託のない笑顔に、名乗れぬ家主は苦笑した。

日は大分傾いて、西の空が赤く色付いてきた。
子供たちは『フェア・ネッド』にお礼を言ってそれぞれの家に帰っていった。
「…で、あんたはどうするんだ?もう汽車もなくなるぞ?」
「あ、ここに泊まるつもりで来ました!」
「ってリゼンブールにゃ宿屋はないぞ?」
「大丈夫です、ご迷惑はかけませんから!」
そう言ってシェスカは大きな荷物をぽんと叩いて笑う。
「ちゃんと野宿一式持ってきましたから!」
「………は?」
「ここの本を制覇しようと思って、1週間の休暇をもぎ取ってきたんですよ。泊まり込めるように寝袋と食料その他、ばっちり準備してきました!」
大荷物の謎は解けた。だがエドワードは愕然としたままなかなか現実に戻れないでいた。
代わりにアルフォンスがシェスカに言った。
「でも女性が一人で野宿って危なくないですか?」
「うーん、ここの治安は良いようですし大丈夫かなって思ったんですけど」
「強盗…とか出るのかナ?」
自分で言っておきながら出そうにないなあとリンは思った。
「ああ、フェア・ネッドの幽霊とか出たりするかも」
「錬金術師の亡霊かー出るかもなー」
いささか投げやりな演技でウィンリィも調子を合わせる。
だがシェスカの笑顔は揺らがない。
「本棚ってその人の内面が表れると思うんですよ。ここの本棚の持ち主になら、私は是非会ってみたいです」
そして心ゆくまで本について語り合いたいです、と力強く言う。
その蔵書を集めちゃった本人は言い出せるはずもなく、途方に暮れた。
元気に寝袋とランタンの用意を始めるシェスカにもはや何も言うことは出来ない。
「…オレの寝る場所がねえよ」
1週間居続けるというのなら、その間ここは野ざらし図書館のままだ。
「………それじゃあ家に来る?リィが大喜びすると思うけど」
アルフォンスの申し出に、顔を上げる。
「ウィンリィの所だと近すぎて不審に思われそうじゃない?」
「そうかな?でも迷惑にならないか?」
「大丈夫でしょ、多分」
こそこそとシェスカに聞かれないようにやりとりをする二人を、少し離れたところで見ていたリンとウィンリィは。
「…必死だナ」
「…必死ね」
その魂胆を見抜いていた。

結局その日から1週間、エドワードはノヴァーリス家に滞在することとなる。

(090905拍手お礼/051105)
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