「あーあ。すっかり遅くなっちゃいましタ」
メイ・チャンはひっそりと静まりかえった道を急いでいた。
誰もが譲り合いの精神をいかんなく発揮した委員会はただひたすら長引いて、学校を出たのはとっぷりと日が暮れてしまってからだった。
(きっとヨキパパもスカーママも心配していまス)
二人の顔を思い出して、自然足早になる。
「近道で行きましょウ」
くるりと右向け右で柵を乗り越え、その勢いで低い植え込みも飛び越える。
この公園を真っ直ぐに突っ切ればかなりの時間短縮になるはず。
えいやっと着地したところで、何かぐにゃりとしたものを踏んだ。
「いやぁっ気持ち悪イ!」
思わず叫んでしまってから(いけなイ)と思い直した。
と言うのも、踏んでしまった「それ」は、生きているもののようだったからだ。
生きてるものを足蹴にするのは失礼で、しかも「気持ち悪い」など言うのは更に無礼だ。
慌ててメイは白黒の薄汚れた生き物に駆け寄った。
「だ…大丈夫ですカ?怪我とかありませんカ?!」
ぴくぴくと引きつり何かを訴えかけるように腕(前足?)を伸ばすそれは、大きさを除けばどうやらパンダのようだった。
(…?どこかで、会ったことがあル…?)
不思議な既視感をおぼえてメイは息を呑んだ。
「えーとえーと…」
問いかけたは良いものの、パンダは人の言葉がしゃべれない。
しきりと何かを伝えようとしているが人間にもパンダの言葉は分からない。
かりかりと土を掻いて何か文字のようなものを書こうとしている。
「え…ええと…『我是空…』」
そこまで読み取った時、それまで無意味に皓々と辺りを照らしていた街灯が不意に陰った。
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