「本当にやるのか?」
床にびっしりと描き込まれた錬成陣を一つ一つ確認するエドワードに、今更ながらマスタングは問うた。
「当たり前だろ?」
複雑に絡み合う意匠や構築式を踏まないよう気を配りながら答える。
最終確認も気が済んだのか、どこかそわそわと落ち着かない立会人たちに顔を向けた。
「別に現状でも大した問題はなかろう?何が不満だ?」
「…まあ、本人もあれで満足してるようだし」
ぽつりと客観的な意見を添えたハボックをエドワードがぎっと睨み付けた。
「毎日毎日!あのやたらやーらかい身体でひっついて乗っかってくるんだぞ?撫でられて触られて舐められてかじられてどーにかなるんだぞ?!
少尉はそんな目にあっても平気なのか?!」
「いやそんな目にあった事ないし。つーか男ならそれ普通に羨ましい日常だから、大将。」
「なら替われよ!替わってくれよ!」
「情けないな。」
上司が鼻で笑う。
「いやならいやだと、はっきり毅然とした態度を取れば良いだけだろうが。」
「5回に1回は逃げ切れてるよ!…あとはなし崩しだけど。」
「大将、本当に何が不満なんだ?んー?」
うなだれるエドワードの顔を覗き込む。心持ち涙目だ。
「…そうだよな、あんたらにとっちゃ今のアルはただ可愛い女の子なだけだもんな…」
「顔可愛くて胸大きくてウエスト細くてぴちぴちで性格も素直でおまけに錬金術も使えちゃう女の子だな」
「改めて羅列してみると非の打ちようがないっすね。」
「ああそうだようちのアルは無茶苦茶可愛いよ!可愛いけどな、あいつ元々男でしかもオレの弟なんだぞ?」
だんだんだんと拳で床を打つ。機械鎧だから痛くはないんだろうが。
「実の弟に押し倒される兄の気持ちが分かるか?!なあっ!」
「それは分かりたくないなあ」
出来ればかかわりたくもないとは気の毒すぎて口には出来ない。生ぬるい笑顔でハボックは誤魔化す。
「手違いとはいえアルフォンスが女になってて良かったじゃないか、鋼の。」
「良くねーよ!」
「きちんと男に戻ってたら、男の弟に掘られていたんではないかね?」
さらっとマスタングは言い切った。
気まずげにハボックは目を逸らす。多分、心のどこかで同じ事を考えていたのだろう。
「恐ろしい事言うなーっ!」
「それはともかく、準備は出来たのだろう?さっさと済ませないとアルフォンスがここに辿り着くぞ?」
「あ、そうだった」
二人には壁際に寄るように指示し、自分は錬成陣の中心へ移動する。
「…いいんすか?大佐。」
「もうこうなったら鋼のの好きにやらせるしかないだろう。」
そういって軽く肩をすくめる。
円の中心でしばし目を閉じていたエドワードはパン、と手を合わせた。
同時に開いた瞳は炯々と静かに輝き、円環を巡るように錬成反応の光が走る。
強い風が巻き起こり光と共に辺りの視界を遮った。

「兄さん!」

ばん、と強い音を立てて部屋の扉が開け放たれた。
息を切らせて乗り込んできたアルフォンスは錬成の跡に立ち尽くす。
「…丁度良いタイミングだったな、アルフォンス。」
「大佐!兄さんは、兄さんはどうなって!」
「落ち着け。…そこにいる。」
指し示された先、部屋の中心にエドワードはぐったりとうつぶせに倒れ伏していた。
慌ててアルフォンスは駆け寄り抱き起こした。
「兄さん?!大丈夫、兄さん?」
懸命に揺り起こそうとする。マスタングも反対側から脈をとり呼吸を確かめる。
きちんと息があり、気を失ってるだけだと分かってほっと息を吐く。
「…大佐、教えて頂けませんか?一体兄さんが何をしようとしたのか。どうして止めてくれなかったのか!」
アルフォンスが視線で締め殺さんばかりの勢いでマスタングを睨んだ。
動じる事もなくそれを飄々と受け流し、無表情に答える。
「鋼のがしようとした事が成功したのかは、君が確認したまえ。」
「……何を」
「私やハボックがしたんではセクハラになるだろうからね。」
はっとアルフォンスは抱きしめていた兄の身体を見た。
全体の線の細さに違和感をおぼえる。少し背が伸びてからはスレンダーな印象が強くなったとは思うが、それとはまた何かが違う。
ばっと上着の前を開きボタンを引きちぎるようにシャツも開ける。
「…これ」
「Bの70、と言う所か。」
「見ないで下さいよ!そして言い当てないで下さい!」
「ほう、アルフォンスの見立ても同じだったか」
「…あんたら、何やってんすか。」
少し離れた所に控えていたハボックが呆れた声でつっこみを入れる。
「兄さん…一体何でこんなことに…」
ひとまず錬成でシャツのボタンを直して前を合わせる。
「アルフォンスを元に戻す方法が見付からないので取り敢えずの緊急避難的措置らしい。」
淡々とマスタングが説明する。
「何ですって?緊急避難?」
「お前さん、毎晩のように大将を襲ってるだろ?で、大将の方ももう参っちまったんだと。」
「男だから女のアルフォンスに襲われるのだったら、自分が女の身体になってしまえばいい、とか何とか。」
「はあぁ?」
「女を男性にするよりは男を女性にする方が安定しててまだやりやすいとか言ってたな。」
「…もう何かやけになってるとしか思えないよな、本当に。」
「………兄さん…」
アルフォンスはじっとうなだれた。膝の上に乗せた兄の頭をそっと撫でた。
そこまで追いつめてしまった自分を責めてしまってるんだろうか、とちょっと常識的にアルの心情を慮ったハボックは甘かった。
「…どうしてそういう…可愛い事を考えるんだろうね」
「っ!?」
くすくすと喉の奥で笑う。無邪気な少女の笑みの筈なのに、何か黒いものが底に沈殿している。
「ボクは兄さんだから好きなのに。兄さんが男だからとか女だからとか、兄弟だとか言うのは関係ないのにね。」
「ああ、そう言うだろうと思ってたよ。」
だから無駄になるから止めておけと、止めはしたのだよ、一応。つまらなそうに大佐は言う。
いっそうほっそりとなったおとがいからうなじにかけての線を指でうっとりと辿る。
「女の子になってもきれいだよね、兄さん。肌のきめは前より細かくなったかな。」
「…その続きは自宅に帰ってから確かめなさい。」
「はい、そうします。」
兄を軽々と抱き上げて意気揚々と帰っていく。
声もなくそれを見送り、ハボックは視線で上司に訴えかけた。
「忘れたか?アルフォンスはああ見えて中身はしっかり男だぞ?」
「…忘れかけてましたがそうっすねぇ……」
「そこに女の身体を差し出してどうするんだと…言っても多分鋼のには理解出来なかっただろうから言わなかったがな。」
「いやそれは言っといた方が良かったような気もしますよ?」

その後それぞれに研究に血道を上げる兄弟(外見は姉妹)の姿が見られたとか見られなかったとか。

(040405)
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