その空き地は近道の定番だった。
軍人たちに限らず近隣の悪童どもにとっても、また猫族たちにとってもそうであったらしい。
ブレダは枯れ草混じりの野っぱらに、赤いものが閃くのを見つけて声をかけた。
「おーい、エドワードか?」
黄金色の草の影から、同じ色の耳と目がひょいと覗く。
午後の日射しが辺りをはちみつ色に染める中、赤い首輪がやけに目立つ。
ブレダの隣で大きく手を振るハボックに、仕方がないなと言うように子猫は近付いてきた。
銀のメダルがちらちらと光を返す。
そうして差し出された手に素直に収まり、撫でられては目を細める。
どうやら撫でられるのは嫌いではないらしい。のど元をくすぐってやればくるくると喉を鳴らす。
「そういやお前、猫は平気なんだな」
ハボックが子猫の毛皮の感触に夢中になってる同僚にふと呟く。
「そりゃお前、猫は吠えないしむやみにでかくならないしのしかかってこないし」
「…実はそれ懐かれてたんじゃないのか?」
「ああ?!しっぽふさふさ振ってやがったぞ?!隙あらば噛みついてやるぞってわふわふ口なんか開けてたし!」
それはやっぱり懐かれていたんではないかなあなんて思いながら、ハボックは子猫を撫でた。
コンパクトサイズの子猫は腕の中ですっかりとくつろいでいる。
「にしても、エドワードも首輪がなかったら見つけられなかったな」
子猫はちらりと片目を開けてブレダを見上げた。
「確かに、大将枯れ草の中じゃ保護色になってたな」
「それもあって首輪嫌がってたのか、もしかして」
「なー」
小さく、だがはっきりと答えが返る。
「野生動物にとっちゃ死活問題じゃないか?」
「…野良猫も野生動物というのかね」
「そこらの動物園の檻ん中の虎よりかは野性味あふれてないか、大将」
「なー」
今度の答えも肯定には違いないだろうが、先程よりはよほど気が入っていない適当な声だった。
寄せられた手に首をすり寄せるのは、気にするなと言うことだろう。
首輪が生存に不利であったとしても、自分で選んだことだからという矜持が読み取れた。
「逆に言えば、どうしてエドワードは首輪を着けることを選んだんだ?」
あんなに嫌がってたのに、とブレダは首を傾げた。
「国家錬金術師の資格なんて大袈裟なもんまで手に入れて」
「そりゃ本が読みたかったからだろ?」
「本読むだけなら大佐相手にするだけでもかなりなところまで読めるだろうが」
彼らの上司は子猫一匹に骨抜きだった。
「国家資格を取ることの危険性が判らないやつじゃないだろう」
「…実験動物扱いとか」
「良い研究材料にしか見られないだろ、錬金術を使う猫なんて」
「まあ、そうだな」
「たまたま大総統にも気に入られて事なきを得ているがそうではなかった可能性だって十分にあったはずだ」
子猫は興味深げに人間たちを見ている。
金色の目がじっと言の葉の流れを見定めている。
ふらりとしっぽが揺れた。
「…もしかして、国家資格が必要ななんらかの理由があるのか?」
子猫は答えを返さない。
ただ面白そうにブレダを見ていた。興をそそられた証拠にひげの先がゆらゆらと振れている。
「聞いても分からないだろ、俺達じゃ」
「…だな。猫の言葉で話されても」
「その点大佐は凄いよなー大将と立派に会話してるし」
「にゃー」
「ああ、まあ時々肝心なことが分かってないなとは思うけどな」
それは人間同士でも良くある程度の齟齬であると言えた。
エドワードの前足を指であやすように遊んでいるハボックに、ブレダは吹き出した。
「なんだよ」
「お前も今立派にエドワードと会話が成立してたぞ」
「そうか?」
自覚がなかったハボックな首を捻った。
子猫は澄まし顔でゆらゆらとしっぽを揺らす。
「…まあいいや。大将、軍部でおやつ食べていきますか?」
「にゃ」
するりとブレダの手から抜け出てハボックの腕を伝いその肩に乗る。
金色の野原のかけらを肩に乗せ、軍人たちは帰途に就いた。

(191105)
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