徹夜明けの視界には、午前10時のうららかな日差しは眩しい。
しょぼつく目を何とかこじ開けながら、フュリーはトレイを手に食堂の空いてる席を探した。
混み合う時間を外した時間帯だったので席はいくらでもあったが、目は自然とその日当たりの良い一角へと引き寄せられた。
「やあ、何か面白い記事はあるかい?」
どこか白々した声をかけると、彼はひょいと片耳だけ動かした。
降り注ぐ陽の光で、子猫は熱心に新聞の社会欄を読んでいた。慶弔欄もくまなくチェックしている。
読む邪魔をしないようにその横にトレイを置いて席に着く。
すると珍しいことに、子猫は読みかけの新聞から目を上げ、上半身も起こしてフュリーを見た。
普段なら読み終わるまでは絶対に他へ意識を移すことなどない。自分の顔に何か付いているのだろうかと手など当ててみる。
「みぁう」
小さく軽い声で子猫が呼んだ。
「何だい?」
首を傾げると子猫はたんたんと前足で紙面を叩いた。
そこを見ろと言うことだろうかと顔を寄せる。
テーブル上に近付いた頭の上に、子猫は勢いよく乗っかった。
あんまり勢いがよすぎて、フュリーの額はいい音を立ててテーブルに落ちた。
驚きと痛みで声も出ない。寝不足の頭に衝撃の余韻がぐわんぐわんと響く。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!」
頭の上に子猫は乗ったままだ。起きようにも起き上がれない。
ふと頭の上の重みが移動する気配を感じたので、どうにか頭を横に向けてみる。
そのこめかみの辺りを、ぺろりと舐められた。
「な…何…?!」
とてとてと首伝いにエドワードはフュリーの肩の所まで降りてきて、按配の良いところを探り当ててくるりと丸くなった。
それは丁度首筋の辺りに小さな頭を載せて、後ろ足の裏が目の前に来る体勢だった。
動揺を沈めるかのように尻尾でひたひたと頬を叩かれる。落ち着けという方が無理だ。
混乱に拍車がかかりフリーズ寸前のフュリーを、今度は子供を寝かしつける調子でゆったりと叩き始めた。
その柔らかいリズムと子猫の体温と、射し込む陽光に意識が解けそうになる。
こんなことではいけない、ここには食事と小休止に来ただけであって眠っちゃいけないんだ。
眠ったら起きられなくなるだろうから仮眠室じゃなくてまず食事を取りに来たんだ、そうだろう、ケイン?
そうだ、子猫を避けて敢然と起き上がれ、現実に立ち向かうんだ!
だがその決意は脆くも崩れ落ちた。子猫の小さな寝息が聞こえてきたからだ。
ふわふわとした毛皮が首筋を撫でてわずかに身動いだ。
慌ててフュリーは息を詰めた。これではますます動けない。動けば子猫を起こしてしまう。
安心したように子猫の尻尾がぱたりとフュリーの顔に落ちる。
ああもうダメだ。意識が金色の闇の淵に落ち込んでいく。
丁度その時だった。
「こんな所で幸せな死体になってて良いのか?」
そんな声が振ってきて、首元の温もりがひょいと取り去られた。
「…ぐなう。」
「大将、こいつにはまだ仕事があるんすよ。」
苦笑するハボックをエドワードは睨み付けた。
「まあ休息が必要だと思ったことには賛成しますがね。そのままじゃ日が沈むまで眠り続けそうだったから。」
喉の奥でしばらくうなっていたが、その辺りはエドワードにも反論できなかったらしい。
だから子猫もハボックの腕から降りようとはせずに大人しく収まっている。
「それに見付けたのが俺だったからよかったようなものの、もし大佐や中尉に見付かってみろ。どうなると思う」
「あ…」
曹長の顔色がさぁっと青ざめた。エドワードは小さく首を傾げている。
「蜂の巣か黒こげか。あるいはその両方だな」
「はははハボック少尉!だだだ黙ってて下さいお願いです!」
「言いつけたりしないって、俺だって不幸せな死体は見たくないぞ。」
なー大将、と子猫に話しかければ、子猫も小さくなーと返す。
「それより早くそれ食って、仕事に戻った方が良いんじゃないか?」
「あ!そうでした!」
時計に目をやり「やばい」と呟くと、大あわてでトレイの上のものを攫うようにかき込んだ。
最後に水で飲み下すと、立ち上がってばたばたと食堂を出て行った。
もちろん、席を立つ前に子猫の頭を撫でてありがとうと礼をすることだけは忘れなかった。
子猫が彼を気遣ってくれたことだけは間違いなかったからだ。
曹長が去っていったあと、少尉は腕の中の子猫に話しかけた。
「さて、大将はどうします?ひなたぼっこ続行ならお付き合いしますが?」
子猫はにゃあと鳴いた。

(090705)
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