猫が国家資格を取ったという通達は、遠くブリッグズにも届いた。
「…何の冗談だ」
アームストロング少将は薄っぺらい書類をためつすがめつしてみたが、どこからどう見ても公式文書だった。
不備も不審の点もない。ただその内容が内容なだけだ。
「猫?」
「ああ。猫が国家錬金術師の資格を取ったそうだ。各軍施設に姿を現した折りには相応の待遇をするように、とわざわざ大総統府からの通達付きだ」
ひらりと手渡された書類に、マイルズも改めて目を通す。
「金の毛並みに足先は白、目も金色、赤い首輪に銀の大総統紋章入りのメダルを下げているらしい。そんな子猫が現れたら丁重にもてなせと」
「…中央は正気ですか」
「どうだろうな」
狂気に片足つっこんでいるというのならば、それはそれでこちらはやりやすいようにやるさ。そう言うとマイルズの手から書類を取り戻した。
上官の意外な行動に、マイルズは首を傾げた。てっきりこれっきりで通達もなかったことにしてしまえくらいは言いそうだと思っていたのだ。
「まあ、こんな北の果てには現れることもないでしょうがね」
「……そうか?」
「猫はたいがい寒いところを嫌いますでしょう」
「っ…そ、そうだな」
少将は再び書類に目を落とすと、何か丸いものを載せるように右の手のひらを上に向けた。
「…何か」
「…手にすっぽりと収まるくらいの大きさ、らしい」
「……それは小さいですね」
「まだ子猫らしい。…毛並みはふわふわだそうだ。しっぽがすんなりと長くてしなやかだとも書いてあるな」
「猫バカに猫自慢をさせると止まりませんよ。経験上。」
「ふわふわか…」
「聞いてませんね」
「いや、聞いているとも。猫は寒いところが嫌いなんだろう」
「ええ、だからここに来ることはないでしょうね」
国家錬金術師の資格を与えられたと言うくらいだから、錬金術の使える猫なのだろう。
昔旅芸人の蚤のサーカスとやらを観たことがあったが、あれよりはずっと見応えがありそうだ。真偽は別として、面白そうな見物を観る機会がないというのは少し残念だ。
マイルズとしてはその程度の感慨しか抱いていなかった。
だが、何やらじっと考えていたアームストロングは直に晴れやかな表情で顔を上げた。
「知っているか、東の果てには「KOTATSU」と言う最終兵器があって、どんな猫でもイチコロらしいぞ!」
「どんな最終兵器なんですかそれは」
そこまで強力な兵器ならば猫に使う前に対ドラクマ用として是非開発してもらいたいものだ。
おそらくはドラクマ人にも有効だと思われるが、幸か不幸かアメストリス人にはまだ知られていない魔のトラップだった。
アームストロングもその名を聞き及ぶのみでその正体は明らかではない。
「と言うか、もしかして猫がお好きだったんですか?」
「何故そうなる」
「何故って」
その反応のすべてが。とは口に出来なかった。
「猫か犬かなら迷わず犬を取るかと思っておりました」
「まあ、犬は役に立つな。賢いし人には絶対服従だし寒さにも良く耐える」
「猫じゃ人の言うことなんか聞きませんからねえ」
「うん。…まあ、聞かないな」
じっと軽く指を曲げたままの手のひらを見つめた。
もしかするとその手のひらの上には見えない子猫が載っていて、「にゃー」とか鳴いているのかもしれない。
長い尾を揺らし、のどなど鳴らしている可能性もある。
だとすれば、猫が犬より気ままだとか言うこと聞かないだとかは全くの些末事になってしまっていると思われる。
想像上の子猫に心を持ってかれたままの上官にマイルズは苦笑した。
「…まあ、子猫が気まぐれを起こすことを期待しましょうか」
猫は気まぐれなものを相場も決まっていることですし。

彼の猫が気まぐれを起こし北国へと足を伸ばすかどうかは定かではない。

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