マスタングの視界のすみを、金色のものが閃いては消える。
「よそ見してないで下さい、大佐」
「見るくらい良いじゃないか…」
ぴしりと厳しい補佐の声に、不平の声を漏らす。くれぐれも小さな声でぶつくさと、である。
それでもきっちり耳には届いたようで、ホークアイの上司を見る目は温度を3度ほど下げた。
「ご自分の招いた結果です」
おお、と部下たちのどよめきが聞こえる。
どうやら何かの飾り房と指示棒を使って誰かの作った即席猫じゃらしにエドワードが飛びついたらしい。
結構な高さまで掲げられたのに見事なジャンプで飛びつくと、くるりと身体を返して房ごと着地。
そこまでは目の隅に入れることができたが、冷酷な部下に書類で遮られる。
「だめです。仕事を終わらせてからです。」
エドワードは非常に猫離れした猫ではあったが、同時に非常に猫らしい猫でもあった。
子猫一般が喜びそうな遊びは大抵好きだった。育ち盛りのやんちゃな子猫がそうであるように、全身全霊でもって遊ぶ。
しかしながら、何故かマスタングに対しては猫らしくない面ばかりを見せてくる。
あんな風に猫全開で遊びじゃれかかる所を、マスタングは滅多に見ることができないのだった。
「私だってあれと遊びたいのに…」
「でしたらまずその目の前の書類を処理なさって下さい」
「だがな、人間息抜きも必要だろう?ここで気分をリフレッシュさせれば効率も上がろうと言うものだ!」
いかにも良いアイディアだというように顔を輝かせて言ったが、部下はすげなく却下した。
「だめです。大佐の仕事の停滞は既にそんなレベルではありません。」
そう言って一山向こうの書類の山の、一番上をとんとんと指で叩く。
「こちらの書類は先週中には終わって良いはずのものでした。」
どうしてまだ終わってないのかはご自分が誰より理解なさっていますね、と言われればマスタングも口を噤むほかない。
エドワードはぴくりと片耳だけこちらに向けたような気もするが、すぐに目の前の猫じゃらしに野生の本能をくすぐられて意識を戻してしまう。
ちなみに。
マスタングが仕事に追われているのがすぐ見える所で彼の部下たちが子猫と戯れているのは中尉の差し金であった。
上司の仕事のため込みように、ついに堪忍袋の緒も切れたらしい。
「あー…癒されたい…あの腹の毛に顔突っ込んでふかふかしたい…」
「欲望が加速してますよ、大佐」
そんなことはまだ誰も挑戦していない。
強行すれば抵抗は目に見えている。後の報復も怖いし、何より嫌われたりしたら哀しすぎる。
(土下座でもして頼み込めばあるいは一回くらいはさせてくれるかもしれない。だが試す度胸は誰にもない。)
「にゃ」
小さく、だがはっきりと大佐に向けられた声が聞こえた。
前足で房飾りを踏まえて、ちらりと執務机の方を見ている。
「…エドワード君もああ言っていることですし、まずは書類を片付けましょう?」
ホークアイがわずかに苦笑混じりに言った。

そうして2時間後、マスタングは驚異的な速さですべての書類の処理を終わらせた。
さりげなく混ぜられていた来週締め切りの案件ももちろん済ませて、得意げに胸を張る。
「これでもう良いな?」
書類を確認しながら、「はい、結構です。…やればできるんですから普段からちゃんとこなして頂ければ何も文句はないのですが…」という補佐官の返事もあっさりと聞き流して意気揚々と立ち上がる。
さあ構うぞ!と見た先では、子猫が遊び疲れて熟睡していた。
丸くなって眠る子猫を膝に乗せたまま、ハボックが「しーっ!」と口の前に指を立てる。
マスタングはしばらくそのまま動けなかった。

(200106拍手お礼/160406)
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