「心当たりのあるものは黙って挙手するように。」
部下をずらりと並べてマスタングは言った。
机の上には、まるまると太ったネズミが一匹入った小さな檻が乗せられている。
まだ生きているそいつは時折ちーちーと鳴きながら檻の中を駆け回っている。
「心当たりってーか…そんな事すんのは大将くらいでしょ」
市販のものではあり得ないディテールの檻を指してハボックは言う。
「そんなことは分かっている。」
肝心の子猫は今日姿を見せていない。
「あれが意味もなくこういうことをする猫だと思うか?」
「いやあいつあれで結構普通の猫っすよ。」
「人間の言葉を理解して錬金術を使うのが普通の猫か?」
「そうじゃなくて」
ブレダがひらひらと顔の前で手を振って、同僚に助け船を出した。
「ネズミ取ったりバッタ取ったりそれを見せに来たりするんですよ。普通の猫みたいに。」
「では本日の収穫を大佐に報告したと言うことでしょうか」
「そんなところだろ。」
ファルマンが首を傾げるがブレダは頷いた。
「今まで私の所にそう言った報告をしに来たことはなかったぞ、あれは」
不満げに大佐は眉根を寄せた。
あげられた『報告』に困惑していると言うよりは『自分だけが今まで報告してもらったことがなかった』ことに拗ねているのだろう。
正確にそれを読み取ったホークアイは上司を見る目の温度を下げる。
「わざわざ檻まで錬成する意味は何なんだ…」
「もしかして、普段お世話になってるお礼とか」
フュリーが思いつくままに口にする。
虚をつかれたようにその場にいた全員に目を瞠られて、ちょっとたじろいだ。
「いえあの、大佐には錬金術の本を読ませてもらったりとかしていますから、他の人より手間をかけているのかと」
「…そう言うことなのか?」
「あ、いえその想像に過ぎませんけど」
心なしか浮き立つようなマスタングの様子にああこれは重傷だなあと少尉二人は鼻白んだ。
だが、ホークアイがそれをばっさりと切り捨てる。
「そうでしょうか。」
「中尉?」
「エドワード君がお礼をするというのなら、ちゃんと相手に見合ったお礼をしてくれますよ?」
「…と言うと?」
「以前、私はコーヒーを入れてもらったことがあります」
「どうやって!?」
「コーヒーミルを錬成して、豆から挽いてですが。」
疲れた様子を見て取って、砂糖を少し多めに入れてくれました。
何でもないことのようにホークアイは淡々と言う。だが、その目尻がかすかに嬉しそうだった。
「えこひいきだ…!」
中尉ばっかりずるい、と口には出さなかったが誰もがそう心の中で悔しがった。

結局、何を思ってエドワードが大佐にネズミを献上したのかは分からなかった。

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