「ああ、そうだ。それが終わったらついでにタッカー氏の所へ行ってくれないか?」
出がけにハボックはそう上司に呼び止められた。
「タッカー氏…すか?」
「ああ、国家錬金術師だ。その近くに住んでいるから、帰りにでも寄って査定が近いことを伝えてくれ。」
「はあ、分かりました。…けど」
それまで大佐の机の端で一心に資料(多分錬金術関連)を見詰めていた子猫が、耳をピンと立ててこちらを見ていた。
「大将、付いてきたいみたいなんすけど。」
「国家錬金術師に興味があるのか?」
犬だったらぶんぶんとしっぽを振っていたことだろう。エドワードは金の瞳をきらきらと輝かせて大佐を見ていた。
「迷惑にはならないと思うんで、連れていっても良いですかね?」
「ああ、良いだろう。…いや、待て。」
マスタングは手元の資料をめくって部下を制止した。
「…やっぱり止めておけ。」
どうしてだというようにエドワードは喉の奥でうなっている。
「どうしてっすか?」
「ショウ・タッカー。二つ名は”綴命”。専門は合成獣の錬成だ。」
エドワードはマスタングの目をじっと見ていた。空気を解すように、大佐は苦笑する。
「つまり、実験動物を多く抱えていると言うことだ。…あまり君には居心地の良くない所だろう?」
「…つーか実験動物扱いされそうな気がしますね。」
軍人二人に見下ろされて子猫は明らかに不機嫌になった。
ふいっと目を逸らすと、再び足下の資料に意識を戻す。
国家錬金術師から興味がそれたようなのでマスタングは内心ほっとしていたが、ハボックがふと思いついたように言った。
「…大将が実は逃げ出した合成獣、って事はないっすよね」
「何?」
「あ、いや俺は錬金術に関しちゃ全くの素人なんで見当違いのこと言ってるかもしれませんけど」
再び大佐は国家錬金術師に関するファイルに目を落とす。
無関心を装ってはいるが、エドワードも片耳をこちらに向けている。
「………タッカー氏は人語を解する合成獣の研究を認められて資格を取ったらしい」
「…………へえ」
「…ハボック、ショウ・タッカー氏の所へエドワードを連れて行ってみろ。そして反応を見てこい」
「ぐなあぁっ」
「念のため、だ。君が合成獣だとも実験動物だとも思わんが一応と言うこともある」
「ふーっ」
「やましい所がなければ行くだけ行ってみても良いだろうが」
「うなぁお」
「いやだからな。」
立派に異種族間で対話が成立している辺り、錬金術師って凄いなあとハボックは見当違いに感心する。
「…よし分かった。等価交換だ。ここに君の読みたがっていた『レメゲトン』写本がどういう訳かあってな。」
見るからにかびくさい書物を引き出しの奥の方から取り出す。
子猫は興奮状態で毛を逆立てて見た目1.5倍の大きさに膨れ上がっている。
「君はショウ・タッカー氏の所に顔を出すだけで良い。それだけでこれが読めるのだが、どうだ?」
エドワードはくんくんと書物のにおいを嗅ぎ、古びた表紙と大佐とを交互に何度も眺めて、とうとう諦めたように立ち上がった。
そして軽く勢いを付けるとハボックの背に飛び移り、その肩へとよじ登った。
「あー…えっと、つまり連れてっていいんすね?」
「ああ。エドワードとタッカー氏と、両方の反応を見て報告しろ。」
「了解。」

「それでどうだったんだ?」
戻ってきた部下に大佐は尋ねた。
両腕の間には子猫がどっかと座り込み、時折しっぽで腕を叩かれてはページをめくる。
真面目な顔をしてもこれじゃ司令官としての威厳は7割減って所だな、と心の中で採点を下してハボックは答える。
「タッカー氏の所の飼い犬にじゃれつかれておしまいでした。」
「…飼い犬?」
「アレキサンダーとか言いましたかね。でっかい犬です。」
何やら物凄い好かれていましたが飼い主も飼い犬もエドとは初対面のようでした、と付け加える。
「それで錬金術関係の面白いものも見られなかったみたいで、大将すっかりご機嫌斜めなんすよ。」
「…そうだろうな」
「しっかりご機嫌取っておいて下さいよ?」
ぽんぽんぽん、とやや苛立たしげにしっぽで叩かれてマスタングは慌ててページをめくった。
「ショウ・タッカー氏的にはただの猫だったのか?」
「多分。」
こうしてエドワード合成獣疑惑は迷宮入りとなった。

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