「あーハボック。これ貼っとけ。」
上司がぴらりと無造作に寄こした紙をハボックも気軽に受け取った。
「掲示板にっすか?…てーか何すか?これ。」
「国家錬金術師の拝命証だ。」
「はい…ってええっ?!」
がばっと紙をよくよく見てみれば確かにそこには大総統印がしっかりと捺してある。
紙も上等、獅子に六茫星の紋章。まごう事なき正式文書だ。
「貼っておいていいんすか?こういうのって本人が保管しておくもんでしょ」
「これに限れば本人への通知と言うより周知徹底の方が目的だからな、良く中身を見てみろ。」
「どれどれ…『大総統キング・ブラッドレイの名において汝エドワードに銘”鋼”を授ける』…ええと、日付日付…」
「四月バカではないぞ。エドワードは大総統閣下の権限で国家錬金術師待遇となった。」
「…マジすか。」
「冗談ではなかったらしい。こっちも並べて貼っとけ。」
もう一枚の紙にも目を通す。子猫が各軍事施設を訪れた場合にはしかるべき対応を取るようにとの通知である。
「こんなのを全軍に出されたらしい。うちはまだあれがどういう猫か分かっているが」
「よそじゃ何の冗談かと思われるだけでしょうね」
せいぜいぞんざいに扱って子猫の報復措置を喰らえばいいさとマスタングはやや投げやりに達観していた。

先日から、エドワードは赤い首輪を着けていた。
大総統閣下が手ずから選んだそれは確かに彼に良く映えていた。
そこに到るまでは素材がどうのデザインがどうの色がどうの、ペットショップ並みにずらりと並べられたそれを幾つもあてがわれつけ替えられていたが。
エドワードとの付き合いが長いからという理由で呼び出されたマスタングも最後まで立ち会った。
「どれも似合うから迷ってしまうな、そう思わんかね?」
「おっしゃるとおりです。」
似合っているのは本当だったのでそれには心から同意する大佐に子猫はうんざりとした目を向ける。
もういい加減飽きてきているのだろう。欠伸をかみ殺すような仕草を見せる。
左手に2本、右手に3本(それでもここまで候補は絞られたのだ)持って未だ思い悩む大総統にちらりと視線を向けた。
仕方がない、とでも言うように立ち上がり左手に持っていた赤い細めの首輪を引き抜いた。
「君はそれが気に入ったのかね。」
「うにゃぅ。」
「そうかそうか、ではそれにしよう」
実は私もこれが一番君に似合うと思っていたのだよ、等と言いながらそれはそれは嬉しそうに大総統閣下は子猫に首輪を着けた。
それが丁度アルフォンスの青い首輪とよく似たデザインのものであることにマスタングは気付いた。
こちらの方がずっと上質な革で作られていたが、色と真ん中に下がった銀のメダルを除けばそっくりだった。
どうやらそれだけの理由で選んだらしい。
さあどうだね、と鏡を向けられても大して面白くなさそうに見もしない。
それでも気にした様子もなく大総統は満足そうだった。

獅子に六茫星の刻まれた小さな銀のメダルが銀時計代わりだった。
そんな軍の看板背負って歩くような真似をしたら今までのように市場で食物にありつけなくなるんではないかと民衆との間の溝を知る軍人は心配した。
だが、それは全くの杞憂に終わった。
市場のおっちゃんおばちゃん方は、子猫がどんなに首輪を嫌がっていたのかをよく知っていた。
「お上ってのはひでぇなあ、お前さんが嫌がってんのにこんなもん着けて」
「本当よねえ。でも悪いねえ、あたしたちじゃ外すわけにもいかないしさ」
「気を落とさずに、これ食ってけ、お前うちのフィッシュアンドチップス好きだったろ」
「そうそう、軍の食事なんか味気なくて食った気しないだろうが」
「全くだ、さ、しっかり食ってけよぼうず」
…そんな具合に同情こそすれ迫害したりすることはなかった。
軍部としては喜んで良いのかどうか嘆いて良いのか微妙だった。

「と言うわけで、エドワードはお前より階級上だからな。」
「はい?」
ぽかんとする少尉に大佐は意地悪くにやにやと笑う。
「国家錬金術師は少佐待遇だ。」
「そう言われてみれば」
「ちゃんと研究資金も出るみたいだな、猫相手に」
「猫が研究資金もらってどうするんですか一体」
「これであれの欲しがる資料を買ってやれと言うことらしい。」
書類に一通り目を通し終えて部下に手渡す。
ハボックはくまなく読み終えると、呆然と言った。
「俺より高給取りじゃねえか…!」

こうして前代未聞の猫の国家錬金術師が誕生することとなった。

(010505)
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