ロイ・マスタングは猫が好きな訳ではなかった。
猫よりは犬の忠誠心を愛した。気紛れで残酷で小粋で洒脱な生き物は女性だけで十分だと思っていた。
だから、その子猫に声をかける時も内心はかなりの葛藤を要した。
それでも、ついには声をかけた。
「一緒に来るか?」
子猫は、金の瞳を数回瞬かせた。
泥まみれの濡れ鼠の子猫は、それでも立ち上がり付いていくという意志を見せた。
その目に獅子か虎のような強い意志を見たから、声をかけずにはいられなかったのだ、とあとからマスタングは気付いた。
子猫は大人しく両手の内に収まった。

意外なことに、泥を落とすと大層きれいな猫だった。
薄い金茶の毛色は、ほとんど金色と言っても差し支えない。足先と鼻先がほんのりと白く、耳の内側が鮮やかだが薄い桜色だった。
まだ生まれてそう間もないのか身体は小さく、毛皮もふわふわと柔らかい。
恐ろしくやせ細っていたので、取り敢えずは食事をとミルクをあてがったら激しく拒否された。
ふーっとうなり声を上げ毛を逆立てて威嚇する。首を傾げているとホークアイが口を挟んだ。
「もしかして牛乳が嫌いなんでしょうか。」
「そんなバカな。子猫だぞ?」
「しかし嫌がっています」
代わりに猫の食べそうなものは何かと探して、オイルサーディンの缶が出てきたので開けて目の前に出してやる。
くん、とにおいを嗅いでちろりと舐めてみて、気に入ったのかぺろりと食べた。
ついでにこう言うのはどうでしょう、と食堂からチキンクリームシチューをフュリーがもらってきた。
そのままでは流石にまずいだろうと少し牛乳で伸ばし、冷ましてから置いてみた。
ミルクが駄目だったんだからこれも嫌うかと思いきや、がつがつとそれこそ皿まで舐めるように平らげた。
「…ミルクが単品では駄目なのか。」
「…混ぜれば大丈夫なんですね…」
呆然とする人間達をよそに、満腹の子猫は前足を舐め毛繕いを終えると悠々と丸くなった。

「それで、大佐がお飼いになるんですか?」
眠っている猫をゆっくりと撫でながらホークアイが問う。
「私が?猫を?」
「…そんな鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしなくても。」
「いや、思いも寄らなかった。」
時折耳がぴくりと動くが、起きる気配はない。外の雨は大分小振りになってきている。
「留守勝ちでも猫なら大丈夫ではないでしょうか。」
寝に帰るだけの家を指してそう言うのだろうが、マスタングは首を振る。
「いや…そう言うことではなくて。この猫を、私が飼うと言うことが想定外だった。」
今度はホークアイが首を傾げる番だった。
「…まあ、猫のもらい手でしたらきっと見付かると思います」
私はブラハがいるから駄目ですが、と付け加える。
「いやいやだからそう言うことではなくてだな。」
大きく手を振って打ち消す。何だか歯切れが悪いのは大佐自身もはっきりとは自覚していないからだ。
「ああ…そうだな、言い方が逆だったか。この猫が誰かに飼われると言うことが想像出来なかったんだ。私に限らず。」
小さな身体を縮こまらせ、雨風を避ける術すら持たずに捨てられていた子猫は、それでも不羈の眼をしていた。
助けを求める声も上げなかったのは鳴き声も出せぬほどに衰弱していたからではなかった。
差し向けられる手には目もくれずに、何かに心を傾けていた。
マスタングに付いていこうという意志を見せたのは、命を繋ぐ必要があったからに過ぎない。
その身の裡に、それだけの矜持を垣間見せていた。
「この子は自分でどうするかを決めるだろう。…それまでは寝かせておこう。」
「…はい。」

マスタングの言葉通り、子猫は目を覚ますとふいっとどこかへと姿を消した。
だがこの後頻々と子猫が姿を現すことは、その予測を超えていた。
とにかくこれが、彼との最初の出会いだった。

(170105)
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