あれやこれやがあって、鎧の身体だったボクは、元の生身に戻った。
柔らかくて温かい。…のは良いんだけど。
「アル。」
「何?兄さん」
「どうしてお前はそういっつもくっついてくるんだ?」
「…うん、分かってはいるんだけどね」
兄さんの身体は、本当に柔らかくて温かい。
髪は絹糸みたいにさらさらで、肌は手触りの良い絹織物みたいにすべすべだ。触っていると本当に気持ちが良い。
触れた感触が分かるって本当に素晴らしい!…と手放しに喜べたらどんなに良かっただろう。
「まだ現実を受け入れられないの?」
冷たく堅いままの機械鎧の方の腕を手にしてウィンリィが呆れたように言う。
兄さんの右腕と左足は機械鎧のままだ。どうしてそれはそのままなんだろう。
「と言うかウィンリィはどうしてそう簡単に事態を受け入れられる訳?」
はい曲げてみて、大丈夫そうねーと整備を続けているウィンリィに悩みは感じられない。
大人しく整備を受けている兄さんにも、葛藤とか懊悩とか、そう言ったものは一切ないらしい。
「兄さんも!何で女の子になっちゃったのにそう平気でいられるの?!」
「だから、なっちまったもんは仕方ないだろうがー」
仕方ないの一言で済ませちゃって良いんだろうか。
「特に不自由も感じないし。」
それもどうだろうか。
「せいぜいやたら若い男に道を尋ねられることが増えたとか」
兄さん、それはナンパだよ。十中八九そうだと思う。
「落としてもいないハンカチ拾われたりすることが増えたとか」
兄さん、それもナンパだよ。古典的だけど。
「そう言うちょっと鬱陶しいことは増えた気はするけど、基本的になにも変わりはないし。」
この人にジェンダーはないんだろうか。ただ者じゃないとは分かってたけど、ここまで逸脱した人だったとは。
一体何のリバウンドなのか、それとも人体錬成の代償なのか分からないけど、兄さんは今『性別:女性』だった。
しかも元が良いからかなりの美少女だよこの人。首を傾げるしぐさがまた可愛いことと言ったら。
胸はそんなに大きくないけど形は絶妙だと思う。脚もすんなりと細く伸びて綺麗だし。
ほっそりしたうなじやそれに続く背中のラインもすっかりと華奢になってしまっている。
「兄さんのたくましい上腕二頭筋や僧帽筋やヒラメ筋や大腿筋は一体どこに行っちゃったんだ…」
「…お前、そんなに筋肉好きだったのか?」
凶悪なまでに細いウェストに縋り付いて嘆く。…ボクより細くないか?ひょっとして。
「筋肉好きなら、アームストロング少佐とか好みなんじゃない?」
「少佐は好い人だけど暑苦しいから義弟と呼ぶのはちょっといやかなー」
「どうしてそう言う話になるの?」
「え、筋肉好きなんだろ、アル。」
「違います。」
ウィンリィはけらけらと笑う。からかってくれてどうもありがとう。
そもそも、ウィンリィだって兄さんのことが好きだったように思うんだけどどうして平気なのかな。
はっきりとした恋愛感情を自覚してなかったとしても、今の状況に思うところがあってもおかしくないんじゃないか。
でも元から竹を割ったようにさっぱりした性格の彼女はあっけらかんと現実を受け入れている。
寧ろ『素敵な機械鎧の女友達がひとり増えてラッキー』と思っているような気がするのは気のせいではないだろう。
…『素敵な』は『機械鎧』を修飾するんであって『女友達』にかかってはいない。多分。
「ボクは兄さんが好きなんであって筋肉が好きな訳じゃないんだよ…」
「アルは、女のオレは嫌か?気持ちが悪い?」
心細げな目でボクを覗き込んでそう言う。
兄さん、それ反則だよ。そんな顔されたら、老若男女問わず即落ちする。
「そんな訳ないよ、兄さん」
ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めた。
「男でも女でも兄さんが好きなことには変わりないよ。でも…」
「でも?」
「元の身体に戻れたら兄さんのお嫁さんになるんだって言うボクの秘められた野望がね…」
「言っちゃったら秘められてないじゃないか」
「ていうか秘めてたの?昔っからおおっぴらだったじゃない。」
「え?そうだったか?」
本気で不意をつかれたようで目をまん丸くしている。
あれやこれやのアプローチに全然気付いてなかったんだね兄さん。そんな気はしてたけど。
「それ以前になあ、アル。兄妹じゃ結婚は出来ないんだぞ?」
真顔で常識を説かないで欲しい。
「法的社会的には認められなくても既成事実を作っちゃえばこっちのもんだと思ってたんだよ」
「既成事実って…」
「それでこの恋愛音痴の錬金術バカがどうにかなったかは怪しいと思うけどね…」
ウィンリィが厳しく指摘する。確かにそうかも。
「ま、これを機会にブラコン卒業してみたら?余所の男に目を向けてみるとか。」
「えー」
「そんな嫌そうな顔しないで。ほら、マスタング大佐とかはー?」
「あんなん良いと思うのかー?」
「兄妹揃ってやな顔しないでよ。一例をあげてみただけじゃない。」
「こないだオレ、大佐に釘刺してきたばっかりなんだぞ。」
「なんて?」
「アルに手を出したりしたら握りつぶすぞって。」
「…何を?」
にっこりと艶やかに兄さんは笑う。笑うだけで答えない。…怖かったろうな、大佐。
「でもそしたら『では君なら良いのか』とか言ってなれなれしく人の腰に手を回してきたからさ、すかさず蹴り入れてやった。」
「どこに!?」
「左足でじゃないでしょうね!?」
整備しようとしていた脚からさっと手を引いてウィンリィが叫ぶ。…そう言う問題かなあ。
「いや流石に武士の情けで右足だけど、そのあと中尉が安全装置外してた。」
「…うわー…ご愁傷様ー」
そう言うことがあったって事は、つまり。
「兄さんが女の子になっちゃったことで、ますます敵は増えてるって事だよね…?」
「…アル?」
「やっぱりボクは国家錬金術師になるよ!そして兄さんを元の身体に戻す!」
決意に燃えるボクをよそにウィンリィは淡々と整備を続ける。
「ああそう頑張ってねー」
「………良いのか、それで…」
兄さんの視線が遠くへ飛んだ。

(161004)
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