あれやこれやがあって、鎧の身体だった弟は、元の生身に戻った。
柔らかくて温かい。…のは良いんだが。
「アル。」
「何?兄さん」
「どうしてお前はそういっつもくっついてくるんだ?」
「兄さんに触ってたいからだよ?」
ちょこん、と首を傾げてそう答えるアルは掛け値なしに可愛い。
あまりの可愛らしさに、深々と溜息を吐く。
「オレは何を間違ったんだろうなあ…」
「そうだね、でもいつまでもくよくよしてても仕方がないよ。」
可愛い弟はソファに寝そべっていたオレの上に乗っかって、にっこりと笑った。笑顔に一点の曇りもない。
「お前自身のことなんだぞ?もう少し悩めよ!」
「うーん、最初はもう少し悩みもしたけどねえ」
オレの胸の上でアルの胸がゆさっと重そうに揺れた。感触は柔らかい。
「生身は生身だし、まあいいかなって」
「良くねえだろ!!」
錬成した弟の身体は、何故かどういう訳か『性別:女』だった。
なんの手違いなんだか目下原因を究明中だが、当の本人はまるで頓着していない。
それどころか、渡りに舟だと思っている節がある。そう口に出してはっきりと言った訳ではないが、言動の端々にそれが見受けられる。
「本当に、ボクは構わないんだけどなあ」
そう言って、こめかみにキスをする。嫌でも豊満な胸が押し付けられる。
ああそう言えば母さんも胸、大きかったよなあ。遺伝か?
「オレは構うぞ…」
「え、兄さん男の方が好きだった?!」
「いやそうじゃなくてだな弟よ」
どうにか距離を取ろうとアルの腰に手をかける。ウェストはきゅっと締まって細い。
けれどそんなあがきを綺麗に無視して、アルはねろりと耳を舐めてきた。思わず身を竦ませる。
くす、と小さく笑うのが聞こえ、かしりと眼鏡のつるを噛む気配がした。
「アル、やめろ」
微かにかすれた声で言っても説得力はない。
本当にオレは何を間違ったんだろう。
オレの最愛の弟は嬉々として兄を押し倒すような奴だっただろうか。
…記憶に検索をかけてみると、そうだったかもしれない灰色判定の思い出が幾つか発掘されてしまったので慌てて止める。
そりゃあきちんと男の身体に戻してやれなかった兄ちゃんも不甲斐ないけど、だからって。
新たに得た武器をフルに使って、あらゆる手練手管で兄を落としにかかる事ぁないだろう?
と言うかお前どこで覚えたんだそんな事。
「ずっと兄さんが好きだったんだ」と言われて、今にも泣きそうな顔で縋り付かれたらもうオレは動けなかった。
「女の子の身体で良かった。兄さんに痛い思いをさせずにすむから。」そう言って微笑んだ。
…痛いってなんだ。参考までにちゃんと男の身体に戻れてたらお前どうしてたんだと聞いたら笑って何も答えなかった。
その笑みが妙に迫力があるというか何というか、で怖かったのでそれ以上深く追求はしなかった。
それでもうなし崩しだ。
いつの間にやらシャツのボタンを外されている。機械鎧の接続部に指を這わせている。
「だって兄さん滅多に休みないし、機会は無駄にしちゃいけないと思って。」
そう言う間も手は休みなく肌を探っている。細く柔らかな手に撫でられるのは気持ちが良い。気持ちが良いからたちが悪い。
「駄目だって、…っ、アル…」
ひゅっ、と空を切る音がした。
オレはとっさにアルを床に振り落としたが、自分は避けきれずにレンチの直撃を受けた。側頭部にかなりの衝撃が走る。
「てぇっ!!」
「真っ昼間っから盛ってるんじゃないわよあんたたちは!」
「…ウィンリィ……」
かなりご立腹のご様子で仁王立ちだ。そりゃそうだ。
「だから止めろと言ったんだ…」
「あんたまた流されてた訳ね。」
ああ呆れ返ってる。アルは床にぺたんと座ってえへ、と笑って誤魔化そうとしている。…無駄だろ、お前。
「ウィンリィが出張整備に来るから、オレは休み取ったんだって。言わなかったか?」
「言ってないよ」
「え?」
「言ってたら覚えてるもの。ボクが兄さんの言うこと忘れる訳ないじゃないか。」
「言ってなかったっけ?」
「うん、聞いてないよ。」
「そっか、悪い。」
ウィンリィが頭を抱えている。
「どうした?」
「………何でもないわ。ちょっとバカを目の当たりにしただけだから。」
バカに付ける薬って作れないもんなのかしら、とかぶつぶつ呟きながら、手際よく整備の準備を始める。
「他に言うことはないのかお前…」
「何言ったって今更でしょ?」
「いや常識的に考えてだな」
手にしたスパナの先でオレの顎をすいっと持ち上げて、鮮やかに笑う。
「あんたが言うな。」
怒ってる。物凄く怒ってる。
「すみません…」
「判ればよろしい。ま、アルがエドを大好きなのもあんたが絶対にアルを拒めないのも判ってるし。
…もういい加減慣れても良いのにいちいち反応する自分にも呆れてるわ。」
「ウィンリィも大変だねー」
のほほんとしたアルの声に、ぷつりと何かが切れる音を聞いたような気がした。
「あんたが言うなーっ!」
今度はオレもかばってやれなかった。スパナは見事にアルの額にヒットした。
「ウィンリィ、アル今生身だから!スパナぶつけたら危ないから!」
「なによあんたにだってぶつけてるわよ私は!」
「いやそれはそうなんだけどな」
「あんたがそんな激甘だからアルもそこにつけ込むんじゃない!自覚しなさい自覚!」
びしっと指摘されればもう何も言うことは出来ない。
オレは大人しく恐縮して機械鎧の整備を受けた。

(050904)
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