シャワーの水を止めた所で、その構築式は湧いてきた。
少し早い風呂を使っている最中、エドワードはふわふわとした論理をとりとめもなく玩んでいた。
それが不意に形を成して次々に思考の空隙を埋めていく。
慌ててエドワードは風呂場を飛び出し手帳を開いて書き込みをする。
「あ、ちくしょ」
濡れたままの手では支障が出るのでどうにかひっつかんでいたタオルで両腕の水分を手早く拭う。
そうする間にも浮かんだアイディアがあふれてこぼれ落ちていくような気がして焦った。
そうして書き写すことに没頭してどの位の時間が経ったのだろう。
「なんて格好してるの!」
「わ!」
ばふりと大きなバスタオルで覆われ、作業は一時中断した。
「アル!何するんだ!」
怒ってエドは弟を睨み付けたが、アルフォンスは怯まなかった。
「それはこっちの台詞だよ!」
「あとちょっとなんだよ!」
「何が!風邪ひくのとどっちが早いよ!」
「待て、本当にあと一行だから…」
もそもそと腕と手帳をタオルの内から出してペンを走らせる。
肩から滑り降りるタオルにアルフォンスは深々と溜息を吐く。
「兄さーん…」
「よし、終わり!…ってアル、お帰り?」
「うん、ただいま…」
落ち着いてしまうとエドワードは濡れたままの髪の毛がすっかりひえて冷たくなってしまっていることに気付いた。
腰の辺りにたわむタオルを引き上げて頭まですっぽり被るとアルの手が伸びてきて髪を拭い始めた。
「夢中になるのはもう仕方ないけど、せめて服は着ようよ。」
「すっかり忘れてた。」
「その分じゃ身体の方ももう冷え切ってるんじゃない?」
「あー…そうかも。」
「そうかもってそんな他人事みたいに。」
丁寧に髪を乾かしていくアルフォンスの手が気持ちよくて、エドワードはうっとりと目を閉じる。
ふと、その手が止まったので見上げると弟は困った表情をしている。
「アル?」
「…そうだよね、分かっててやってる訳じゃないんだよね…」
「?どうかしたのか?」
小さく呟かれた言葉を、何でもないよと笑顔で流す。
「それよりも兄さん、女の子なんだからもう少し気にしようよ。」
「何をだ?」
「風呂上がりに素っ裸で一心不乱に書き物してるのはどうかと思うよ。」
扉を開けたのがボク以外だったらどうするの、と呆れた声で付け加えられて、エドワードは首を傾げた。
「女じゃなくて、男でもその光景ってちょっと異様だと思う。」
「その異様な光景を作り出していたのは兄さん本人だと言うことを自覚してよ頼むから」
感覚がないはずなのに眩暈を覚えるのは何故だろうとアルフォンスは思った。
扉の鍵はかけられていたが、カーテンは開けっ放しで夕暮れのずっしりとした琥珀色の光が部屋中に満ちていた。
外からだって見ようと思えば中は容易に見られる状態だ。
「誰かに見られたらどうするの。」
「…見られても気が付かないと思う。」
「………ボクもそう思うよ。思うけどね。」
「気が付かなけりゃそれで終わりだし、見る方も別にどうってことないだろ、多分。」
「どうってことないことはないと思うよ、多分!というかボクが構う!」
「何で」
「何でも!」
どういえばこの人は分かってくれるのだろうかと砂を噛むような思いでアルフォンスは言いつのる。
エドワードはしばらく考え込むようなそぶりでいたが、やがてようやく気が付いたというように見上げて問い掛けた。
「アルは、どう思うんだ?」
機械鎧が夕映えの光を溶かし込んで鈍い金銅色の艶を帯びている。
髪も睫毛さえも混じりけのない黄金色に光っている。同じく金色の双眸は、不思議に静かな光をたたえてアルフォンスを見据えている。
未成熟と言うよりは未完成な感じのする幼い肢体は良くできた人形のように滑らかな曲線で伸びてゆき、それに無骨な機械鎧が続いていく。
アルは、とてもじゃないが正直には答えられなかった。
「…風邪ひきそうだな、と思う…」
そんな言葉で逃げた。
「…そうだな、服着るか…」
着替えどこにやったかな、と風呂場の方に戻っていくエドに、アルフォンスはまた溜息を吐いた。

(281204)
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