懸命に腕を伸ばしつま先立って高い書架にへばりついている国家錬金術師をファルマンは見かけてしまった。
手近に踏み台になりそうなものはない。指先がぎりぎりで本の背表紙をかすめているが、きっと届かないだろう。
「これですか?」
ひょい、と背後から手を伸ばして一冊を引き抜く。
「あ、ありがとう准尉。」
ばつが悪いところを見られてやや渋い顔をするが、それでも素直に礼は返ってくる。
本を受け取り、エドワードは身体から力を抜いた。
「届くと思ったんだけどな。」
「後もう少しでしたね。」
そう悔しそうに言う。
実際は指がかかったところでそこから引き出すのもまた一仕事だったろうがそこは黙っておく。
「本来こういう参考図書は下の方に排架しておくべきだとは思うのですがね」
「下の方も参考図書でぎっしりだからだと思うぞ…」
「なるほど。」
「丁度良かった。ファルマン准尉に聞いた方が多分早いよな。」
「何でしょう。」
ぱっと表情を明るく変えて尋ねられる。こんな風に聞かれると、期待に応えなければ悪い気がしてくる。
「んーと、この年代の文献目録でこっちの索引に載ってないのがあったと思ったんだけど覚えがあるか?」
「ああ…多分禁書がらみですね。発禁リストと付き合わせると分かると思いますよ」
「ピーター・サイモンに関する研究だったけど…」
「はい、間違いありませんね。発禁リストは大佐の所にあったはずです。」
「そっか、ありがと准尉」
満面の笑みで感謝される。ついファルマンもつられて微笑した。
「んじゃー大佐の所に行ってぶんどってくるか!」
かなりかさばる本を数冊抱えて元気よく資料室をじゃーなー、と挨拶を残して出て行く。
さて、それではと本来の用事を思い出してファルマンはエドワードとは反対の方向に視線を向けた。
「………。」
視線の向こうには、上司が立っていた。
「………。」
しかも手には資料を持っている。
「…発禁リストですか。」
「…そろそろ戻しておかないといけないだろうと思ったんだ。」
「使ったらすぐに戻して下さい。」
「ああ、今度からはそう心掛けよう。」
そう言って資料を棚に戻した。
「今すぐなら追いかければ間に合うと思いますよ?」
ファルマンがエドワードの去っていった方向を指さすとマスタングは眉を顰めた。
「何故私が鋼のを追いかけなければならないんだ?」
「彼女が必要とするだろうと思ったから戻しに来たのでは?」
タイミングは見事に悪かったが。
「サボテンに水をやりすぎれば根が腐るだろう。」
「エドワードはサボテンですか」
「似てるだろう。」
得意げに笑う。ふむ、と准尉は思案した。
「確かに乾燥に耐えるところは似ているかもしれません」
「トゲトゲしているところもな。」
「それは大佐の態度にも原因があるのでは…」
心外だ、とばかりに大佐は睨み付けた。
「それに、乾燥を好む砂漠の植物でも水分は必要とするんです。」
「…知っている。」
居心地が悪そうに一冊を書棚から引き抜いてぱらぱらとめくる。
特に気を惹くものはなかったのかまた元の場所に戻す。
「だが鋼のにはもう十分な地下水脈はあるだろう。」
「言い訳としては不十分ですね。」
ファルマンはもう一度、丁度執務室の方角を指さす。
「資料を持って戻った方が良いですよ。大人なんですから。」
「…私には慈雨は必要ないとでも言うのか」
「雨、降って良いんですか?」
マスタングは大きく天を仰いで嘆息した。

その後大佐が執務室の扉を開けた途端「二度手間かけさせやがってこの無能!」という罵声に出迎えられた事を准尉は同僚から聞かされた。

(051104)
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