初対面で紹介された時に、思わずバカ正直な感想を口にしてしまった。
「へえ、女の子なのに名前がエドワードなのか。変わってるな。」
紹介してくれた親友は目をまん丸くしているし、その隣にいた副官は手から書類を取り落とした。
紹介された小さな(後でこれこそが禁句なのだと思い知らされた)錬金術師は慌てるでも取り乱すでもなく言う。
「たまにいるんだよ、こういう人。」
「…あー…言ったらまずかったか?」
「いや、別に。強いて隠してる訳でもないから。」
それにしちゃあロイの反応が大袈裟だったような気がしたが。
見ると目が据わっている。
「何故分かった?」
「あ?いやそうとしか見えなかったもんだから…」
「この私が永らく気が付かなかったのに何故お前が一目で見抜く!」
ばん、と机を叩く。ホークアイ中尉は額に手を当てた。
理由はそこか。返す言葉も見付からずに天井を仰いだ。
「…ガキかよ、あんた。」
子供の指摘は辛辣だが的確だった。

その小さな子供の金髪頭を思いがけない場所で見た。
「エドじゃないか?」
声をかけると、立ち止まって振り向いた。
それまで表情の乏しい人形のようだった横顔が、途端に生気を取り戻す。
「ヒューズ中佐?」
「おーどうしたこんな所で。」
「どうしたって、査定だけど。」
それならば中央にいるのも合点がいく。
「そうか。通りそうか?」
「誰に聞いてんの、中佐。」
「まあ聞くまでもないか。」
小憎らしくも生意気に笑うその頭をぽんぽんと叩いてやる。
すると猫のような身のこなしでふいっと逃げられた。不機嫌そうに目を眇める。
「子供扱いするなよ。」
「ああ、悪い悪い。」
ふくれた顔がまた子供っぽくて、笑うしかない。
ますます怒るかな、と思ったが意外にも溜息一つで済んだ。
「…良いけどさ。実際オレはガキだしな。」
「そりゃまたガキらしくない達観だな。どうした?何かあったか?」
「別に。大したことじゃないさ。」
目を伏せて、すっと表情を消す。
「大したことじゃない。」
小さく口の中で呟く。不穏なものを感じて、問い質す。
「…本当に何かあったならちゃんと言うんだぞ。オレでもいいし、ロイでもいい。」
エドワードは顔を上げて真っ直ぐにこちらを見た。訴えかけるものは何もなく、静まりかえった目をしている。
その奥にあるものを見抜こうと金の瞳を覗き込んだが、その前に逸らされた。
「…あんたは、本当にちゃんとした大人だよな。」
苦笑してそう言う。
違う。ちゃんとした大人なら、子供にこんな顔はさせない。
喉まで出掛かったがそれは声にはならなかった。小さな子供の柔らかな苦笑に全て堰き止められる。
「大人げない大人がいてさ。それでちょっとふててた。ごめん。」
「何か無茶言われたのか?」
「そんなとこ。いい年して錬金術を魔法か何かと勘違いしてるらしくてさ。」
説明に手間取って大変だった。そうさらりと言う。
ちょっとしたことのように言うが、軍属でしかも査定の最中に階級が上の者にごねられたのなら言うほど簡単なことではなかっただろう。
不平不満を飲み込み、忍耐強く接して神経をすり減らしただろう事は想像に難くない。
あるいは、もっと無体な要求も出されたのかもしれない。考えられなくはない、ここは軍だ。
けれどそう言った全ての憶測や懸念を呑み込んで、エドワードはただ苦笑する。
自分の選んだ道だから、と声なき確固とした意志がそう告げている。
そうして、不用意な子供扱いさえも許容する。
「そんな風に大人に心配されるのは、結構嫌いじゃないな。」
言葉はひねくれているが。はにかんだように笑う顔は随分と可愛らしい。
「心配くらいさせろ。お前だって年頃の娘なんだから。」
「…いやそう言う心配は多分いらないと思うぞ、うん。」
「そうか?まあ確かにちょっと発育不良な気もするけどな、ちゃんと食ってるか?」
「食ってるよ!つか悪かったな発育が足りないコンパクトなどチビで!」
「言ってねえだろうがそんな事」
途端に沸点を超えるから面白い。…とは本人にはとても言えない。
「…あー…まあ、実際さ。中佐や少佐に子供扱いされるのはオレとしてもそんなに嫌じゃないんだけど。」
「誰にされるのはいやなんだ?」
「大佐。」
即答だ。
「正確には子供扱いじゃないんだけど。…なんてーか…会う度にからかわれてんのがさー」
「ああ、ありゃ子供扱いじゃあないな、うん。」
「かといって偉いおっさん達のともまた違うんだけど…」
偉いおっさん、の括りの中に俺もロイも入っていないのか。歓迎すべき事なんだろうな、うん。
「そりゃあな、あいつは子供に慣れてないんだよ。特に、お前みたいな一人前の子供にはな。」
「何それ。」
「世の中半人前の大人もいればお前みたいな一人前の子供もいる。それをうまく理解出来てないんだよ。」
笑ってぽんぽんと頭を撫でてやる。今度は逃げられなかった。
きょとんとした目で見上げている。本当に、子供ってのは可愛い生き物だと思う。
「一人前に見えるのに子供にも見えるお前をどう扱っていいのか分かってないだけだよ。」
「そおかあ?からかって楽しいってだけじゃないか?」
「んーそれもあるかもなあ」
「否定してくれよ!」
くるくると変わる表情が楽しい。
「あー…そうだな、んじゃロイに一泡食わせる機会を作ってやろうか?」
「は?」
唐突な提案にまた目を丸くする。
「実はな、東方司令部でお前とロイと、どちらが強いかって話が持ち上がってるんだと。」
「何それ。」
「やってみるか?やるなら掛け合ってやるぞ?」
焚きつけてやると、不敵に笑った。
「面白ーじゃん。受けて立つぞ?」
「おう、がんばれ。勝ったら可愛いエリシアちゃんの秘蔵の写真をくれてやるからなー」
「いやそれいらないから。」
大事なら大事にしまっとけ、とどこかうんざりした口調で言われた。
「んじゃ関係各所に話は付けてやるから、中央にいろよ?」
「分かった。」
妙に浮き立った気分で鋼の錬金術師と別れた。

(021004)
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