インクをたらしたような暗い空に、時折稲妻が走る。
臓腑を震わせる轟きがそれに遅れて響く。まだ幾分かは遠い。
「綺麗だな。」
「こうして中から見てる分にはね。」
エドワードは一心に窓の外を見ていた。
だんだんと雷鳴は大きく近付いてくる。大丈夫だと思っても、アルフォンスはびくりと身を竦ませる。
「怖いか?」
からかうように笑ったその横顔がまた、雷光に白く照らされる。
金色の髪が白熱しているみたいで、一瞬アルは見とれた。
「少し、怖いな。」
「ここには直接落ちたりしないと思うぞ。…そういやお前、昔から苦手だったっけ。」
そう言って窓辺から離れてアルフォンスの近くの椅子に腰掛けた。
手の届く位置に来ると、何故かそれだけでアルは安心した。
それを見透かしたように、エドは小さく笑った。
「あの音がどうしても。」
「ドラムみたいでわくわくしたりしないか?」
「それは兄さんでしょ。」
ふう、と大きく溜息を吐く。
「それに、やっぱり落ちたらって考えると怖いよ。」
「…落ちたら。」
じっとアドワードはアルフォンスを見詰めた。完全に科学者の目だ。
「…どうなるのかな、お前。」
「試そうなんて言わないでよ兄さん。」
「そんな事は言わないが…」
限りなく純粋な知的好奇心に満ちた目で見ている。
多分、魂の錬成時の構築式と鎧に定着させる過程を頭の中で再度試行して、それに強い電圧が及ぼす影響を様々にシミュレートしているのだろう。
自分が実験動物扱いだと思ったことはないが、それでもアルはざわざわとしたそこはかとない恐怖を感じる。
「兄さん。」
「あ、悪い。」
アルの声にエドが我に返る。
その時、かなり近くに轟音を立てて雷が落ちた。
はっとつられるように二人とも窓の外を見た。
いつの間にかアルは拳を握り締めていた。まだ窓の外に気を取られているエドワードに気付かれるより先に、そっと力を抜いた。
「兄さんは昔から雷好きだったよね。」
垂れ込める暗雲の隙を縫うようにひらめく光をまだ追っている。
「ああ…綺麗だからな」
意識は稲妻の後を追ってまだ戻りきっていないらしい。声がどこかうつろだった。
「怖いとは思わない?」
「ん…」
「あれが自分に落ちたら、とか考えたりはしない?」
雨粒が窓を叩き始めた。ようやく、エドがアルの方に向き直る。
雷光を映した白金の光は失せて、いつもの金色に戻った瞳にアルはほっとする。
「雷が自分に落ちたら」
ふっと俯いて何かを考え込む。
瞳が睫毛の影になる。長めの前髪がそれを更に覆う。
「…あれが当たったら、俺は別のものに生まれ変われるような気がしてた。もっと、きれいな別の何かに。」
顔を上げてそう告げる。
全くの無垢な、初めて見るような表情の兄にアルフォンスは戦慄した。
「生まれ変わったりしないよ、兄さん。」
「アル?」
「雷が当たったりしたら、死んじゃうよ」
「アル、分かってるって。…大丈夫だから。」
エドワードは困ったように笑って、アルフォンスに手を伸ばした。
昔雷を怖がった弟にしたのと同じように、両耳を塞いでやって額を寄せる。
「大丈夫だよ。…な?」
小さな頃だったら、力一杯しがみつけたが今のアルフォンスにそれは難しい。
どうしたらいいのか分からずに途方に暮れる。
「怖くないよ。アルフォンス。」
エドワードは、アルフォンスの頭をぎゅっと抱きしめた。

(260904)
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