「バカだな、また来たのか」
呆れたような、何処か憐れむような声が聞こえた。
白いぼんやりとした人影の表情は見えない。
「アルを取り戻すためだ。脚でも腕でも持って行け。」
エドワードは扉の前に立ち、声の主を睨んだ。
「あれを見て、それでもまだそんな事を言うのか?」
「見たから尚更だ。」
「知って尚、シナリオ通りに動くか。」
嘲りと哀れみの言葉を聞いて、ぎり、と奥歯を噛み締める。
失った左足からは今も血は流れ続けている。けれど痛むのはそれではない。
「死の扉をくぐり、古き肉体は朽ち、新たな生命を得ることがアイツには必要だった。」
その声は『真理』であり『世界』であり『全』であり『一』である。そして自分自身でもある。
ならばその言葉もまた、自分自身の知ったことだ。確認されなくたって分かっている。
だから、もう黙れ。そう思ったがエドワードは言えなかった。
「完全体を目指すためには、その肉体を失うことが必須だった。」
完全な生命。それをあの男は目指していた。
エドワードにとってはそんなものはどうでも良かった。完全なものなど、夢物語のようなものだと思っていた。
エドワードはただ、母と弟と、一緒にいたかっただけだった。
「最初から仕組まれていたことなのか」
母が死んで、その錬成を姉弟が試み、そして弟が肉体を失うこと。
母に対する執着、その強い思いまでもがあの男には予測済みのことだったのだろうか。
そしてアルフォンスを失ったエドワードが、再び真理の扉の前に立つことも。
「オレの気持ちも、全てあいつに作られたものなのか?」
何を引き替えにしても取り戻したいと願った、あの強い想いも作り物だというのだろうか。
「知りたいか?」
それまで含まれていた嘲笑が声から消えた。
「え…?」
「知ることは、可能だ。…但し、代償は必要だ。」
だが、エドワードは弱々しく首を振った。
「…いや。オレには支払える代償はない。」
血にまみれた手に目を落とす。
「今のオレは全部、アルのものだ。アルのためなら、腕でも脚でも、命だってくれてやる。
でも、それを知りたいというオレのエゴのために失えるものは何もないんだ」
「エゴか?」
「ああ。…少なくとも、アルのためじゃないだろ」
そう言って、力無く笑う。
先刻まで片足でもしっかりと地を踏みしめて立っていた、あの力強さはない。
それなのに、却って揺るぎないように見えた。
「オレは、アルを取り戻す。その為に、今ここにあるんだ。」

「…そうか。ならば好きにすると良い、錬金術師。」
エドワードから、代償が奪われる。
「さあ、戻れ。弟が待ってる。」
意識はそこで途切れ、唐突に現実へと繋がった。

(280804)
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