「オレははっきり言って軍なんてどうでも良いんだけど。」
面白くもなさそうに書類に目を通しながら鋼の錬金術師は言う。
「世の中等価交換だからな。」
「そう言うこと。」
上司もまた面白くなさそうな声で返答する。
一体何の書類なのかハボックには窺い知れない。きっと面白くもない書類なのだろう。
これが錬金術に関係するものならば、エドワードは目を輝かせているところだ。
アルフォンスはホークアイから別の書類を受け取っている。
「しっかり働いてくれたまえ。」
「大佐もな。」
ぱさり、と書類を置くと別の紙にさらさらと何かを書き付けていく。
「はい、これで終わり。多分これであってると思うよ。」
「早いな。」
「そうか?結構単純な文字置換だぜ。」
「そう言うのは頭の柔らかい子供の方が得意だという話だからな。」
「頭の固いおっさんの嫌みとして受け取っておくよ。」
どうやら何かの暗号解読だったらしい。エドワードが特に興味を惹かれていないところを見ると、錬金術関係ではないようだ。
「だからな、オレは軍なんてどうでも良いし、ましてや軍の上に誰が居たって構わないと思ってるんだよ。」
エドは大きく溜息を吐いた。
「それは国家錬金術師としてかなり問題発言だぞ、鋼の。」
「余所じゃ言わねえから良いだろ、別に。」
「まあそれもそうだが」
「それも上司として問題発言だと思われますが。」
ぴしりとホークアイの指摘が入る。ハボックに到ってはまるで他人事のように頷いているだけだ。
軍部としてはかなり問題なんじゃないかな、とアルフォンスは思ったが今更なので黙っていた。
「オレとしちゃあ、オレの手足とアルの身体と元に戻って、後は田舎にでも引っ込んで研究三昧で暮らせればそれで良いんだけど。」
さらりと言われるとまるでささやかな夢のように聞こえるから不思議なもんだなとその場にいた誰もが思う。
「そんな壮大な野望も叶えるには等価交換の原理が働くんだよな。」
「まあ当然だろうな。」
マスタングの無味乾燥な相槌が返る。
それをじろりと見遣って、エドワードは更に続けた。
「それでも野望のために方々廻ってるとさ、色々なことがあるんだよ。」
「まああるだろうな。」
「軍の狗と呼ばれたり軍の狗と呼ばれたり軍の狗と呼ばれたり」
「………」
「軍の狗は帰れと言われたのにこっそりお菓子をくれたおばさんがいたり石をぶつけられた後裏通りで薬をくれた爺さんがいたり」
「いたね。徴発されて帰ってこなかった息子さんの替わりにって親切にしてくれた人とか」
「そう言うことがあると、考える訳だよ。等価交換って何だって。」
とんとんと書類を整える。
「オレは、あの人達に何を返せる?」
軍の重要機密やそれに類する、くだらないぺらぺらの紙を机の上に無造作に置く。
「だからさ、オレは軍の上層部がどうのって、本当にどうでも良いんだよ。」
真っ直ぐに上司を見て言う。
「ただ、それがあの人達に影響を及ぼすって言うなら、話は別だ。
軍部がどうにかなって、あの人達に良い『何か』を返せるって言うなら、オレは幾らでも協力するよ。」
「…本当に、余所ではそんな話をするんじゃないよ。」
溜息混じりで言うと、エドワードはにやにやと笑う。
「する訳ねえだろ。てーか誰が聞くよ。」
「確かに。」
国家錬金術師になるには素直じゃいけないんだろうか。奇しくもハボックとアルフォンスは同時にそう思った。
全く、二人揃って素直じゃない。
「あ、そうだ等価交換で思い出したけど中尉」
「何かしら?」
「大佐のサイズってもう測った?」
唐突に話題が切り替わる。
「…等価交換とどう関連があるんだね?」
「つーか何故中尉に聞くんだ大将…」
男どもの困惑をものともせずにホークアイは答えた。
「まだ測ってなかったわ、ごめんなさいね。メジャーは引き出しにあるんだけど。」
「そっか、じゃ今測っちまおうか?」
「そうね、良い機会だし」
「何の?!」
「こないだ行ったところで良さそうなの見かけてさ。サイズ分かったら作ってくれるってそこの仕立屋の爺さんも言ってくれたから」
「あら。どんなの?」
「うん、スカートは三段フリルになってて、きれいな青でだんだん色が濃くなってるの。で、金色の糸で縁取りされてて。」
「派手じゃない?」
「うん、祭の踊りの衣装だって言うくらいだから物凄い派手。後ろに裳裾みたいな飾りも付いてて。
でもそんくらい装飾過多な方が体型とか色々隠せて良いんじゃないかなって思って」
「って兄さん、それこないだ見たドレスの話?!」
「うん、そうだけど。」
アルフォンスは半ば悲鳴のような声を上げる。
「あれと大佐のサイズと何の関係があるの!」
「え、大佐に着て貰うから」
「ちょっと待て鋼の」
「何で?!折角兄さんに女の子の自覚が出てきたのかと思って喜んでたのにどうしてそんなことになってるの?!」
頭抱えて嘆くアルフォンスをハボックはただ呆然と見守っている。
最早ただ傍観者で居ることだけが至上の策だと自己防衛本能が告げていた。
「オレが着る訳ないだろうあんなの。」
「私だって着る訳ないだろう鋼の。」
完全に引きつった表情でマスタングは言った。
それを打ち砕くかのようにホークアイは無表情に言い切った。
「いえ、着て頂きます。」
「何故!」
「似合うかもしれないからです。」
きっぱりととりつく島もない。
「似合わないに決まっているだろう!だからどうしてそんな話になっているのか説明したまえ!」
ばんと机を叩く。ひらひらと書類が飛んだが気にしている場合ではない。
「そーだよなー似合わないに決まっているよなー」
「エドワード君、諦めては駄目よ。」
「でも大佐もああ言ってるし。」
「新たな魅力が見付かるかもしれないような気がしないでもないでしょう?」
「………中尉。説明、してはくれないのかね…?」
ホークアイはがっくりと力の抜けた大佐の座る脇の引き出しを勢いよく開けると、中から白い布を取り出して言った。
「大佐はこのワンピースをエドワード君に着て貰いたいと思いませんか?」
「う」
「なあ…何であんなところからあんなもんが出てくるんだ?」
「さーなー…」
聞かれても一介の少尉さんには答えられない。
「…大佐も何か兄さんに夢見てたんですか…」
「…言うな、アル。」
「それとこれと何が関係あるんだね中尉…」
絞り出すような大佐の問いに、返る答えは矢張りきっぱりとしたものだった。
「等価交換ですよ、大佐。」
どうなるんだろうなあと話の中心にいる筈なのに、エドワードは他人事のように追いつめられるマスタングを見ていた。

(100804)
□back□
本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース