書き上げた書類をチェックしていた大佐が言った。
「書き直しだ。間違っている。」
「え、どこ」
「凡ミスだ。…ここ」
指し示された箇所を見てエドワードは首を傾げた。
「femaleって女じゃなかったっけ?」
「その通りだ。」
「……」
「……」
国家錬金術師の資格試験の為の書類を前に奇妙な沈黙が訪れた。
「…もしかして、女じゃ国家錬金術師になれないとか?」
「…いや、そんな事はない、が…」
「そうだよな、そしたら初めっから性別欄なんか作らないよな」
エドワードはそこで納得したようだったが、対照的にロイは頭を抱えた。
「女じゃ不利なのか?でもこういう書類で嘘書くのって拙いんじゃないかって思ったんだけど。」
そうでなくても人体錬成だの何だの拙い条件は揃っている訳だし、揚げ足を取られそうなことは少ないに越した事はない。
「そう言う事じゃない。確認しておくが、君は女性なのか?」
「そうだけど。」
意を決しての問いにさらりと答えが返される。
「まあ分かんないのも無理はないけど。男名だし、見た目もこんなだし。」
「性別を隠しているのか?…理由を聞いても?」
「それは構わないんだけどさ、ちゃんと答えられる奴がずっと行方不明で。オレも詳しい事は知らないんだ。」
あっけらかんと言う子供に、苦悩の色は見えない。
二次性徴の兆しも見えない子供だからと言う事もあるのだろうが、それにしてもこだわりが見えない。
「…ああ、でもエドワードって名前の由来はあったな、そう言えば。」
ふと、瞳に上る感情の色が変わったような気がした。
「由来?知人の名前だとか」
「いや?えっと、娘が欲しかったんだって。」
「は?」
逆ではないのだろうか。
「で、次に生まれる自分の子供が女の子だと良いなあって事で、オレに『エドワード』って付けたんだって。」
「話が見えないんだが…」
「オレは男でも女でも良かったんだ。次に生まれてくるアルフォンスに対になればそれで良かったから。」
伏せた睫毛は、存外に長く影を落とした。
「あいつの研究ノートに拠れば、オレは両性具有の完全体で生まれてくる筈だった。
でも、何がどう間違ったのか不完全で性の定まらないただの人間が生まれてきたんで、路線を変更したんだそうだ。
…段階を踏んで、アルとオレとの次世代には完全体が生まれるようにって。」
「…きみは」
「折角男名付けて娘が生まれてくるのを待っていたのに、生まれたのは男の子だったんで仕方なくオレを女の性に固定したんだってさ。」
エドワードは顔を上げる。
上げた顔はふてぶてしい、生意気な子供の顔でにやりと笑う。
「まあ、与太話だと思うけど。大体その勢いで男名付けたからってそのまま男で育てなきゃいけない理由はない訳だしな。」
「もしかしたら私はからかわれているのかな?」
丁度悪戯が成功した時の顔だ。
そんなに悪い気はしなかったが、敢えてロイは渋面を作ろうと努力した。成功はしていないようだが仕方がない。
あの作り物めいた表情よりは今の方がずっと良いのは事実だ。
「本当の理由は多分ばっちゃんあたりに聞けば何かあいつから聞いてるかもしれない。
でもあいつの研究ノートを解読した時のオレの気持ちを誰かに分けてやりたかったんだよ。」
アルにはとても言えないし、と小さく呟いた。確かにあの弟なら真面目に受け取りそうだ。
「フルオーケストラに合唱付の全演奏時間2時間8分の一大交響曲の実体が実はただの暗号解読表で、本当の研究書は『おかあさんとこどものための童謡集』だったってオチを知った時のオレの気持ちが分かるか?!」
「はぁ?」
「何故か楽譜だったんだよ、父さんの研究書。」
「…なるほど。君の父親はかなり周到な人物のようだな。」
憮然とした様子のエドワードに、ロイは思わず苦笑した。
「それで?」
「って何が?」
「オレの性別の話。」
そう言えばそう言う話だった。
「オレとしては聞かれりゃ女だって答えるけど聞かれなきゃ相手の取りように任せるつもりで行く方針なんだけど。」
「書類上と生物学上・事実上の性が一致しているのだったら問題はないだろうな。」
他の問題点はないか書類に目を走らせる。
「指摘されたら個人の自由だとでも言っておこう。それで良いかな?」
「うん。」
小さくありがとう、と呟いたのが聞こえたような気がした。
多分、彼女の中に長い間わだかまっていた事を聞いた事に対する礼なのだろう。
ロイは答えずに、聞こえなかった振りをした。

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