アルフォンス・エルリックは至福の真っ只中にあった。

ここ数日、徹夜続きだった兄がとうとうお天道さんに白旗を揚げた。
「1時間!1時間経ったら起こせよアル!」
そう言って、ぱったりと目を閉じた。即落ちた。
人通りの少ない公園のベンチで、大きな鎧の膝を枕に丸くなって眠るその姿はそれだけでも微笑ましいかもしれない。
『あー流石に疲れちゃってるなー』とぼんやりとしていたら、どこからか茶虎の子猫もやってきた。
『わーわーわー君何処の子ー?』内心大喜びで構い倒したかった猫好きはしかし動けなかった。
動けば兄の睡眠の邪魔になる。声に出せばまた然り。
子猫はそんなアルフォンスの葛藤を全くきれいに無視し、ピンとしっぽを伸ばしてベンチの上を音も立てずに歩く。
一番ぽかぽかと暖かい場所を見つけ出して、そこに丸くなった。即ち、エドの腕の間。
『え?』
堂々と特等席に収まった茶虎に気を取られていると、いつの間にか兄とは反対側の膝の上に黒猫が乗っていた。
『え?ええ?』
曲げたエドの膝裏の辺りにも足先の白い灰色猫が目を細めている。
動けないでいるアルの肩には白黒斑が、腕の下には雉虎が入り込んできた。
『ええと…猫天国?』猫好きにとっては間違いなく天国である。
気が付くとそこはねこだまりだった。

『こうしてみると、兄さんも猫みたいだなー』
軍の狗、と言うが犬の忠誠心や従順さとは程遠い。
気紛れで気位が高い、と言えば頷く者も多いだろう。
『でも、猫って結構一途で義理堅いよね。そう言うとこも兄さん猫っぽいかな。』
日を受けてきらきらと光る金色の髪を見て思う。丁度光の加減で、茶虎の毛並みも似たような色を返している。
柔らかくて小さくて(言うと怒るので言えない)、同じ生き物だと言われても信じてしまいそうだ。
『でもボク鎧の身体で良かった。今生身だったら、脚が痺れて動けなくなってる。』
兄も猫たちも重さを感じない。それを抜きにしても、こうも身動がずにいれば生身ならば強張りきっていただろう。
『…それにしても兄さんここまで無防備なのもな…』
ここまでエドワードが緊張を解いているから、子猫も集まってきたのだろうが、しかし。
『確かにボクには感覚も欲求もないんだけど』
手の中で丸くなっている黒い子猫をゆったりと撫でながら、アルは遠くを見る。
『美味しそうなものを見て食べたいとは思わなくても、美味しそうだとは思うんだよね…』
敢えて説明するようなことでもないし、また説明するのも難しいことだったので今までエドに言ったことはなかった。
またその差異は、食欲に関することだけではないと言うことも。
『…こういう時、生身じゃなくて良かったのか悪かったのか、凄く悩むんだよね…』
多分、この悩みは理解してもらえない。そんな確信があった。

結局、アルフォンスはエドワードを起こすことが出来ずに怒られた。
「だって猫が寝てたから」と言い訳したら「兄と猫とどっちが大事なんだ!」とますます怒られた。

(170804)
□back□
本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース