兄さんがボクの頭をぎゅっと抱きしめる。
薄い胸の向こうから、規則正しい鼓動が聞こえる。
「生きてる」
思わず呟いた。
微かに腕の力が強くなる。
視界は兄さんの細い肢体にふさがれてしまっていて、聞こえるものは兄さんの鼓動と、有るか無きかの呼吸音と、遙かな遠雷の轟きだけだ。
「命の音が聞こえる」
「…うん。」
感覚があったなら、兄さんの体温や柔らかな筋肉や、その奥の骨格も感じ取れただろう。
命の音が、がらんどうの鎧の中に響く。
おそるおそる兄さんの背に腕を回す。抱き潰してしまわないように腕の中に閉じこめる。
ほんの少し、兄さんが笑う気配がした。
多分、泣きたいのをこらえるような、苦笑いと言うにはあまりに必死なあの顔だ。
痛みを感じるはずのない身体なのに、胸の奥が引きちぎられるみたいに痛い。
「アル。」
小さく呼ぶ声が、真っ直ぐに血印に届く。
流れていない全身の血液がざわりと騒ぐような気がした。
「にいさん」
腕に力が込められる。
兄さんの機械鎧が兜と無機質な軋んだような音を立てる。
「痛い、よ」
「アル?」
兄さんが怪訝そうに問い返す。
兄さんの声が、抱きしめる腕が痛い。
細くて小さくて、柔らかなのに何者からもボクを守ろうとする身体が。
自分のことなどまったく顧みることなく、肌も機械鎧も傷だらけにしながら真っ直ぐに立ち向かうその姿勢が。
しなやかでしたたかで、でも実は酷く優しい。
規則正しく刻む心臓の音が、泣きたくなるほど愛おしい。
それと同時に酷く哀しい。

「ああ、そうか。」

同じなんだ。
「アル?どうしたんだ?」
兄さんが心配そうにボクの顔を覗き込んだ。
兄さんとの間に隙間が空いて、もう鼓動の音は遠ざかって聞こえない。
「いとしいのも、かなしいのも一緒なんだなって。」
柔らかそうな頬を撫でた。金色の目はまだ心配そうにボクを見ている。
「どちらも、胸を引き裂かれるみたいに痛い。」
「…アル」
「あんまり心配させないでね?」
兄さん無茶ばかりするから。
「分かってる。」
どこか照れたようなふてくされたような顔でそう答えた。
何が分かってるのか、怪しいけど。
実際、よく分かってはいないと思う。
兄さんの心臓が確かに動いている、生きて呼吸している、そのこと自体がボクにとってどんなに大事なことなのか。
その目に、確固とした意志のあることがどんなに重要なのか。
そうした自覚がないこともひっくるめて、その存在全てがきりきりと胸を締め付ける。
その痛みは、嫌じゃない。
生きている実感を味わっているような気がする。
目を覗き込んで笑いかけると、ほっとしたように兄さんの身体から力が抜けた。
「兄さんはボクの命で全てなんだから。」
大事にしてよね、と言うと、おう、とぶっきらぼうに小さく呟かれた。
多分、微妙に意思の疎通がうまくいってないような予感がするけど、まあよしとしよう。
ボクは兄さんをぎゅっと抱きしめた。

(200904)
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