雨の降る日のエドワードは、調子が良くない。
機械鎧の接合部が軋むように痛むらしい。本人はそう言うけれど、それだってやっと聞き出したことではあるが、理由はそれだけではないとアルフォンスは踏んでいた。
いやな記憶はやたら雨の日に重なっている。
雨雲と一緒に垂れ込める暗い記憶や気分を、兄は痛みと一緒に思い出す。
けれども、エドワードがそれをはっきりと言葉にしたことは一度もない。
ただぼんやりと兄の周りに漂う気鬱から、アルフォンスはそう推測するだけだった。
だが、そんな雨の日にも珍しく、エドワードはこの日いつになくだるそうに弟に寄りかかっていた。
アルフォンスは内心首を傾げる。
よりかかると言うよりはもはやしがみつく体勢になってしまっている。ベッドに腰掛けるアルフォンスの片膝に上半身を預けて腰にしっかりと腕を回す。
押し当てられた顔はアルフォンスからではその表情は窺えない。
むき出しの白い生身の肩が、やけに細く見えた。
「珍しいよね」
身動ぎもしない兄の肩にアルフォンスは無骨な手を乗せる。
対比でいっそう華奢に見える肩から腕を静かに撫でてみる。ほんのわずかにエドワードの首が動いて、ほどけたままの髪が落ちてうなじがあらわになった。
何がだ、か悪いか、とエドワードは呟いたようだった。くぐもるような小さな声だったのでアルフォンスにははっきりとは届かなかった。
何故だろうねえ、とアルフォンスは視線を宙に浮かせた。
「兄さんがちゃんと女の子に見えるよ」
そう言うと、今度こそエドワードは視線をアルフォンスへと向けた。
眉根を寄せて半ば睨むように見上げる。
ひるむこともなく、アルフォンスはうっすらと笑った。
「年に1度くらいは、女の子らしい兄さんに会えるのも悪くないと思うよ」
「どういう意味だ」
エドワードの外見はいつもと何ら変わりはなかった。
黒ずくめの服もごついブーツも、一見少年にしか見えない。それは普段と全く同じなはずだった。
黒いタンクトップから伸びる肩も腕も鍛えられてしなやかで、ほどよく筋肉がついている。
それなのに、アルフォンスには自分にすがるように伸びる兄の腕がいつになくたおやかに見えた。
エドワードは再び視線を下ろした。
「…女だろうが何だろうが、オレはオレだ。」
肩に置いていた手を頭へと運び、細い金の髪を梳くように撫でる。
さらさらと流れるような髪に半ば見とれながら、アルフォンスは答えた。
「うん、そうだね。兄さんは兄さんだ」
「…お前は」
「ん?」
小さな小さな声で、何かを尋ねられたような気がして聞き返す。
「何?」
アルフォンスは身をかがめて兄に身を寄せる。
「…お前は、女のオレの方に会いたいのか」
聞かれた内容は、アルフォンスにはちょっと意外だった。
「今自分で女だろうが何だろうが兄さんは兄さんだって言ったじゃないの。女の方のオレって何」
「女らしい方が良いのかって」
明らかに首を傾げた様子の弟に、エドワードは顔を上げた。
照れているのか怒っているのか、頬が紅い。
らしくないことは自覚しているらしい。アルフォンスは思わず笑った。
「笑うな!」
「だって女らしい兄さんって」
変だ、と続ければ殴りかかってきそうだったのでその言葉は飲み込む。
その代わりに、浮かんだ素朴な疑問へとすり替える。
「と言うか、女らしいって何だろうね?」
「…何って」
「今のボクが思うに、今の兄さんは充分に女らしいんだけど。」
「どこが」
「んー…」
全般的に。と言っても多分兄は納得しないだろう。
懸命に言葉を探す弟に、諦めたようにエドワードは溜息を吐く。
「…もういい。」
そうしてまたアルフォンスに回した腕に力を込めて縋り付く。
「オレはただ、」
アルフォンスもエドワードの肩に手を置いた。雨のせいで湿気寒いような気がして、少しでも温めたいと思った。
実際はアルフォンスには湿度も温度も感じることはできず、冷たい鎧では兄を温めることもできない。
「オレが生身のお前に会いたいと思って、でも生身だろうが鎧だろうがお前はお前だと思うようにお前も思っているのかと」
ああ何を言ってるんだろうな、オレ、と小さく呟く兄の声をアルフォンスはぼんやりと聞く。
ああだからか、と突如アルフォンスは腑に落ちた。
静かに笑って、細い肩を抱くように撫でる。
「多分同じだよ」
そう答えると、ほっとしたように力が抜けた。
いつか女の子の兄さんと生身のボクが出会うよ、きっと。慰めではなく言うと、ようやく兄の顔がほころんだ。

(070706七夕企画/150709)
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