エドワードはすぐに弟を見つけることが出来た。
「あ、おかえりなさい」
探すのは簡単で、日なたで暖かく、風が直接吹きつけたりしないところを好んでいたからだ。
何故好むのかと言えば、そう言うところは猫も好むからだった。暖かな空気も時折思い出したように吹く木枯らしも、彼の硬い鎧にはまるで意味はない。
そんなわけで、今日も首尾良く日当たりの良い公園のベンチを見つけて本を読んでいた。たくさんの猫たちに囲まれてたいそう機嫌がよい。
猫は思い思いにあるものは丸くなりあるものはきちんと足をしまって、鎧の傍らに座っている。弟同様に彼らもご機嫌麗しいようだ。
「猫だらけだな」
「この時間はね。もう少し日が傾くと、みんな帰っちゃうんだ」
「そっか」
1匹が気まぐれにエドワードの足に身体をこすりつけてきたがすぐに興味を失ったようにふいっと離れた。
アルフォンスの座るすぐ横に丸くなって眠る雉虎に、エドワードは手を伸ばしてそっとその頭を撫でた。かすかにヒゲをふるわせたものの、彼は目を開けようともしない。
「お前アルを風よけにしてんのか」
ちゃっかりしてやがるなあ、と苦笑する。
アルフォンスの腕の間から不意に顔を出した三毛猫は、そのまま何事もなかったように飛び出してゆったりとした足取りで去ってしまった。
するとそれが合図だったかのように、周囲の猫たちもおもむろに立ち去りだした。
「ああ、そろそろ時間だね」
最後の一匹…つまり、アルフォンスを風よけにしていた雉虎が夢見心地な足取りで振り返りもせずに行ってしまうまでそう長くはかからなかった。
読んでいた本にしおりを挟んで、アルフォンスは律儀に彼らを見送った。
エドワードは彼らの間にある決まり事を知らなかった。知ったとしても、理解するのは難しいと思っていた。
「…でも、まあ」
日溜まりの中に眠る猫も、その中に溶け込んでいる大柄な鎧というものもエドワードにとっては好ましいものだった。
それは額縁の中にはめ込まれた絵のようにしっくりとしていて、見ているだけで満足できた。
本当にそれが1枚の絵でしかなければいいのに、と心のどこかで思いさえした。ただの絵だったならば、猫も弟も、翳る太陽や自分のような闖入者にその平穏を破られることもあるまい。いつまでもいつまでも、平和で暖かく心地よい場所で幸福なまま静止する。
そんな感傷を瞬きひとつで振り払う。聡い弟はすぐに自分の弱いところをかぎつける。気付かれる前に視線を上げた。
「オレたちも出発の時間だ。行くぞ」
「うん」
日溜まりの一等席に何の未練も残さずにアルフォンスは立ち上がる。実際、兄の隣以外に未練などない。聞けば即座にそう答えが返ったことだろう。
「あ、でもその前に」
エドワードはいたずらっぽく笑って、弟の鎧の胸を軽く叩いた。こんこん、と機械鎧の指と鉄の鎧とがふれあってがらんどうの中身に響く。
「中に猫を隠してたりはしないな?」
入ってますか?などと言いながら耳をあてたりする。
「入ってないよ!連れていけないのは分かってるってば」
どうだか、と言いながらまた笑う。そんな兄を見ながら、今日は機嫌がいいんだな、と内心で首を傾げた。
聞けば「こんなに天気がいいからな、冬なのにな!」とやっぱり笑いながら答えた。
その論理は良く理解できなかったが、機嫌がよいのは悪い事じゃないよね、とアルフォンスは考えた。

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