小柄な身体にちょっと小粋な黒いエプロンを身に着けた幼なじみは、ひいき目を差し引いても男前だった。
大きなかたまり肉をだんだんと立てる音も小気味よく鍋に入れるのに手頃な大きさへと解体していく。
寸胴鍋にほぼ丸のままのにんじんやタマネギを放り込んでいく様と言ったら豪快としか言いようがない。
「…で、あんたは何を作っているんだっけ?」
「え?見て分かんねえ?」
一般的なポトフとしては及第点だと思う。
「まだ流動食食べてる相手にそのかたまり肉は辛いんじゃないかしら。」
「これから煮込んでいけば柔らかくなるだろ」
「そうね、そうかもしれないわね」
煮立ってきた鍋の表面からあくをすくい取る手つきだけは妙に丁寧だ。
「でも、やっぱり固形物はまだ早いと思うんだけど」
「そうかなあ」
かん、とレードルを流しの縁で叩いて水気を飛ばし、軽く首を傾げた。
「しっかり食うもん食って体力つけるべきじゃないか?」
体力つけるにはやっぱ肉だよ肉!と脳味噌まで筋肉になってるんじゃないかと思うようなことを力説する。
そう言いながら、エドワードの選んだ料理は肉は添え物の、軟らかく煮た野菜と旨味のたっぷり溶け込んだスープが主体のポトフだった。
ちゃんと分かってるくせに、どうして表立ってはこうも無骨なんだか、素直じゃない。
ウィンリィは棚から裏ごし器を取り出すとエドワードに向かって投げつけた。
「なんだこれ」
「野菜が煮えたらそれでなめらかに裏ごし。それをスープとミルクでのばすこと。分かった?」
網目越しにエドワードが眉根をよせる。
「…折角煮くずれないようきれいに煮てるのに」
「おなかの中に入れば同じよ」
それはいつもならばエドワードのセリフだった。
ますます苦汁を飲んだような顔になるのを見て、ウィンリィは思わず吹き出した。
「そうねえ、ちょっともったいないくらいスープは澄んでるし野菜も形残ってるわね」
「そう言う料理だろうが」
ふいっとそっぽを向く。
どんなに男前でも作る料理は弟のためだった。そのためならいくらでも丁寧にきれいに作りたいと思う気持ちは、彼女にしては非常に珍しいことだが恋心というものなのだろう。
滅多に見せない幼なじみの表情に、くつくつと笑みが湧いてくる。
それと同時に心の裏側をちくりと刺すものがあるような気もしたが、気がつかなかった振りでふたをする。
ちょうどタイマーが時間を告げたので天火のふたを開け、「まあいいか」と呟く。
エドワードは全く分かっていない様子でウィンリィと同じようにオーブンをのぞき込んで「良いんじゃねえの?」と言った。
「何が?」
「アップルパイの焼き加減のことじゃないのか?」
こんがりきつね色に焼けたアップルパイは、エドワードに言われるまでもなく上出来だ。
「…もういいわよパイの出来栄えで」
自分の恋心にも無頓着な男前に、この複雑な乙女心が分かってたまるか。
案の定、エドワードは小首を傾げている。ウィンリィはため息を飲み込んで、にっこりと笑った。
「今度エドにも教えてあげるね?」
おう、とぶっきらぼうに答えたその頬が心なしかうっすらと紅く染まっていた。

「…でもさ、流動食食ってる奴にアップルパイは無理なんじゃねえ?」
「…やっぱりそう思う?」
「ポトフ以上に無理があるんじゃねえか?」
「じゃあ、これはあたしたちで食べちゃいましょ」
「…アルに作ってやったんじゃなかったのか?」
「そうだけど」
けろりとそう答えると、さっさとナイフを入れてしまう。さっくりとしたパイ生地の間から金色のリンゴが覗き「いやーんおいしそー」と悲鳴のようなものを上げる。
それにはエドワードも全面的に賛成だったが、なんだか腑に落ちない。
乙女心は斯様に複雑で、エドワードが会得するまでにはまだまだかかりそうだった。

(060307拍手お礼/040707)
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