ピンと張りつめた空気の中揺らぐこともなくすっきりと背を伸ばし。
澄んだ蒼穹を当然のように従えて咲く、冴えた空気の結晶のような。
触れればたちまちしおれて枯れてしまいそうななにものも寄せ付けない、孤高の華。

そんな諸々の思いを込めて言ってみた言葉だったはずだった。

「まるで冬のバラのようだよ」

言われた方は少し考えて、叱られた子供みたいな上目遣いで聞き返してくれた。
「…そんなにトゲトゲしいか?」
…まあ、そうだね。形容としてはそんなに変わらないかな。
ボクは冬に咲く花を、兄さんは枯れた冬のイバラを想像しただけであって。
………結果は同じなのかな。
心の中で必死に自分を慰めてみる。
ただ兄さんは詩的な空想ではなく現実的な観察に基づいた比喩表現だとしか取らなかっただけだ。
そうしてそれが兄さんのいつもの事じゃないか。
今更がっかりするような事じゃないだろう、アルフォンス・エルリック。
淡い期待の残骸を小さな溜息で追いやって、ボクは兄さんに言った。
「もう少し肩の力を抜いた方が良いと思うよ」
「分かってる。…焦ったって仕方ないって分かっちゃいるけどさ」
心なしかうなだれた頭のてっぺんを見下ろして、小さく笑う。凍えた空気を耕すように。
すっかり暗くなった道すがら、空振りに終わった古書街巡りの鬱屈を押し付けるように夕食を放棄しようとした兄さんを引き留めた。
この路地を抜けると、小さな食堂があったはずだ。きっとまだやっている。
なおも突っぱねようとする兄さんを、少し趣向を違えた言葉でたしなめれば、案の定すぐにその意を察してくれる。
…まあ、一番言いたいところだけだけど。
小さな声で「悪ぃ」と呟かれる。
荒かった足取りが少し穏やかになる。
「ボクらは立ち止まってるわけじゃないと思うんだ」
「うん。…多分な」
星の光が明るい。こうも冴えていると言うことは、空気はキンと冷えているのだろう。
兄さんにもう一枚着せておくべきだった。風邪ひかないと良いけど。
せめて何か温かいものでも食べてもらわないと。ボクは足を速めた。
「そうだな、何事も前向きで行かなきゃな」
不意に兄さんは振り返って、目を細めて笑った。
それこそ花のほころぶような笑顔で。
「アル?」
黙ってしまったボクに、兄さんは首を傾げる。
「なんでもないよ。」
ボクは兄さんの右手を取って先を急いだ。

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