出発間際に駆け込んだ始発列車の座席を確保して、エドワードは大きく伸びをした。
「あーやっぱまたハズレだったなー」
何か怪しい秘密の研究をしているらしい、何でもそれは「生命の水」を作り出しているようだ、などという密かに流布していたまことしやかな情報を元にたどり着いたのはただの酒の密造現場だった。
確かに「命の水」だが賢者の石とはまるで無関係で、錬金術とも何の関わりもなかった。
欠伸をかみ殺す兄に、アルフォンスは小さく笑う。
「でも兄さん、そのハズレに結局夜明け近くまで付き合っちゃうんだもん」
「だってなあ…」
彼らの「研究」には錬金術は関係なかった。皆で昔からの知恵を持ち寄りよそで聞きかじってきたことを寄せ集め、幾重にも改良を重ねていた。
「美味かったんだよ、あの酒」
「兄さん未成年がお酒飲んじゃ駄目だよ…」
「味見ただけだって。飲み込んじゃいないし」
未成年の飲酒が成長によい影響は及ぼさないことをよく知っているのでその点は気をつけていた。
「美味いんだけど、確かに後一歩何かが足りない感じがしてさ」
そうして錬金術師的見地に立って醸造施設の改良について述べて実際に2〜3の部品をいじって、酒の方の成分分析も試みたりしているうちに夜が白々と明けて。
「…国家錬金術師が酒の密造に関わったって…やっぱまずかったかな」
「良いんじゃない?バレなければ」
いつもならそれは兄の台詞だったので、意外そうにエドワードはアルフォンスを見た。
「だってさ、兄さん名乗ってないし、あの人たちが捕まらなければ良いわけだし、捕まったとしても多分兄さんの名前なんて出ないだろうし」
「まあ確かに名乗っちゃいねえけど」
それに多分、彼らにとってはこの人の闖入は夢うつつだっただろうから、と心の中で続ける。
丁度皓々と明るい月夜に、突然踏み込んできた少年とも少女とも付かない金の髪の子供が
「…ってただの酒造りかよ?!てーかその蒸留機なんだよ?つかこの余計な管とか無駄な配管は一体なんだ?!あーもーこれじゃ濾過の意味ねえじゃねえか!」
と設計図もなしにどんどん改良を加えていくのはかなり現実離れした光景だったと思う。
月光を映して縁に金の波を立てる薄赤い澄んだ酒に口を付け、気に入ったのか染まった頬をゆるめる様子とか、月明かりに普段よりも青白い艶を返す金髪に作り物めいた白い肌もあいまって、もしかしたら酒精の見せた一夜の夢じゃないかと思っているのではなかろうか。
まあ夢ではなかった証拠に醸造機が芸術的に改良を加えられてしまっているわけだが。
最初から最後まで傍観者に徹していたアルフォンスはそう思う。
徹夜してしまった上に全力疾走で駅に駆け込んだ兄はくたりと座席に身体を預けている。
動き出した列車のがたごとと揺れるリズムがゆりかごのように作用する。
まばゆい朝日もものともせずに、眠りに落ち込むのはもうすぐだろう。
「兄さんも夢だったことにしておけば?」
どうにか目をこじ開けて弟を見る。
「万が一バレちゃった時にさ。そんな夢を見たような気もしますって」
「…そうだな、そう言うことにしておくかな」
小さく笑って、そのままとろとろと意識が陽の光に溶けてゆく。
「着いたら起こすよ」と言う弟の声を夢うつつに聞きながら、エドワードは夢も見ずに眠った。

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