窓の外、元気に駆け回る子供たちの様子を見ながらトリシャは小さく微笑んだ。
「エドワードはだんだんとあの子に似てきたわね」
「あの子というと?」
「エドワードの本当のお母さんですよ」
「ああ、ホーエンハイムの妹かい」
ピナコは合点がいったという風に頷いた。
「あたしゃその子には会ったことはないが…そんなに似てるのかい?」
「ええ、あの人やエドと同じ金の髪に金の目で」
遠い面影を追うようにトリシャは目を細めた。
「ほっそりとしてどこか儚げで。最初に会った時は空気の精霊(シルフ)かと思ってしまったくらい」
「…その辺りはあまり似なかったみたいだね」
石をひっくり返してはその裏にへばりついているダンゴムシやムカデの数を競い合う声を聞きながらピナコはひとりごつ。
また孫娘の勝利だったらしい。悔しげな兄弟たちが別の石を物色しているようだ。
「小柄な身体から繰り出されるローリングソバットやスープレックスのキレの良さと言ったらもう惚れ惚れするくらいで」
「え?」
「しょっちゅうあの人があの子の神経逆撫でしては連続技を喰らっていたわ。」
懐かしげに語るトリシャの顔を、ついまじまじと見詰めてしまう。
聞き違えたかとも思ったが全く聞こえたとおりのことを言っていたらしい。
「…身体が弱い子だったと聞いていたけど」
「ええ、病気がちでほとんどを寝床で過ごすような子でしたよ」
哀しげにトリシャは顔を曇らせた。内心、ピナコは胸を撫で下ろす。
「本読むのが好きでいつも枕元には何冊かの本を離さず置いておいてましたっけ。」
「そう言う所は似ているね。エドも本を読むのは好きだろう?」
「ええ、暇があると書斎にいて。本当、あの人たちはそう言う所がそっくり。」
くすくすと笑う。
「あの子は特に百科事典が大のお気に入りでしたっけ。」
「へえ。」
「あの分厚い本を何度も何度も繰り返し読んで。私には何が面白いのかさっぱり分からなかったけど。」
子供たちの威勢の良い声が聞こえる。
ムカデとヤスデではどっちが勝ちかの判定で言い争っているらしい。…どっちでも良いと思う。
「手元に置いておくと、攻撃力が高いから便利なの、と言ってたわ。」
それは私にもよく分かったわ、ところころと笑う。
「角で殴れば近接武器になるし、投げれば遠隔攻撃にもなるものね」
「…聞くまでもないかもしれないが攻撃を受けたのは」
「あの人よ。5冊連続できれいに急所にヒットしてトドメに索引巻で後頭部を強打した時には、あまり見事だったんで思わず手を叩いちゃったわ」
何となく、ホーエンハイムが留守がちな理由が分かったような気がした。
いやいや、これはあいつの妹の話であってこの目の前の慈母の如きトリシャのやったことではないではないか、とピナコは思い直そうとした。
だがしかし。
「私も見習わないとってずっと思ってたんだけど、あの技のキレはとうとう会得出来なかったわ」
しみじみと語る彼女に打ち砕かれる。
ピナコは心の底から友人に同情した。

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