「失敗か。」

その声が、混沌の中をたゆたっていた意識を収束させた。
声は空気を振動させて伝えられたのではなかった。彼と自分との間は薄い硝子の壁と暖かな液体とで隔てられている。
自分にはまだ聴覚は備わっていない。視覚も触覚も、何もかもが未完成だった。
けれども彼の声と、そこに乗せられた失望とはしっかりと伝わってきた。
それまで水面を漂っていた泡沫の意識はそこで凝って、「自分」を形成した。
そうして最初に受け止めた「他者」の意識が失望だった。
その失望は己のものではなかったが、ぐさりと柔らかな意識に突き刺さった。
開かぬ目から熱い涙があふれる。口が嘆きの声を上げようとしたが、羊水がそれを妨げた。
「しかし、無意味ではない。」
男の手が伸ばされる。
胸の内にあるのは彼の失望の反響なのか、或いは彼に失望しか与えられなかった自分を嘆く悲しみなのか分からない。
ただ、彼は自分が泣いている事に気付いたらしい、と言う事は分かった。
「意味のない生命はない。…お前も」
静かに硝子の表面に触れた。
「不完全だが、無意味ではない。」
ゆっくりと意識を外に向ける。
無造作に積まれた数多の書物。複雑な計算を連ねた紙片。書きかけの構築式。
散乱する試験管、シャーレ、フラスコ。鈍い光を放つ薬品や鉱物。
そう言ったものに囲まれて立つ一人の男がこちらを見ている。
『何故』
真っ直ぐにこちらを見ている。否、こちらを通して全く別の「何か」を見ている。
「お前は次の成功へと繋がるだろう。」
彼は何を見ているのだろうか。何を言っているのだろう。
彼の言う「成功」とは何だろう。
「完全な生命をこの手で作り出したいと願うのは、錬金術師にとっては自然な欲求だろう。」
ああ、そうか。
これは錬金術師という生き物だ。
その目で見ているのは摂理、真理。世界の全て。
その全てを掌に載せようとする不遜な生き物。

それが最初の記憶だった。

(050604)

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